はにーでいず。

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はにーでいず。

地球に突如やってきた宇宙人。彼らは地球に存在するありとあらゆる“甘いもの“を根こそぎなくすと大々的に宣言をした。 ――猫に向かって。 「ふにゃあ」 「いや、ふにゃあじゃなくて。おれたちは“辛いもの“がすきなの。んで、“辛いもの“の反対にあたる““甘いもの“を根こそぎなくしてやるって言ってんの」 前髪にわずかに掛かる艶のある白髪をもつ男の子がむすっとしながらそう言った。黒い猫は言葉の意味を理解しているのかいないのか、男の子の言葉に鳴き声で応えた。 「にゃー」 「ねー、ねー!この子、可愛いね!可愛いよね!可愛かった!ペットにしよう!そうしよう!そうしたい!そうするよ!」 ピンクの長い髪を揺らしながら、きゃーきゃー騒ぐ女の子は黒い猫に向かって手を伸ばす・・・・・・が、その手はもうひとりの男性によって掴まれ猫には届かない。頭の両端で髪の毛を結んでおり、女の子が動く度に少量の髪の毛が遊ぶように動いている。髪の毛を括り付けた部分には赤い球体がふたつずつ付いている。手がすかっ、すかっと風を切り、その風が猫の顔にあたり猫は楽しそうに目を瞑っている。 「ん?あれ?届かない!届かないよ!届かなかった!あっ、手が掴まれているよ!はーなーしーてー!!」 「いけません、お嬢さま。まずは相手の意志を聞いて、話し合いをしてからでないと」 「ウィルのケチんぼー。でもこの子、お話ができないみたいだよ!お話ができないなら仕方ないよね!仕方ないよ!仕方なかった!フィリアのペットに決定だよ!運命なんだよ!」 ウィルと呼ばれた執事姿の男性は瞳を潤ませるピンクの長い髪をもつ女の子――フィリア――に向かってため息をひとつ吐いた。白髪の男の子はそのやり取りを横目でちらりと見たあとに、黒い猫の耳許に口を寄せた。 「(いいか、よく聞くんだ。フィリアのペットになったらおまえはフリフリのピラピラのロリロリなものを身に付けさせられるぞ。選択肢はふたつ。ありのままのおまえのままでいさせるおれと、その反対のフィリア。どっちを選ぶ)」 「ふ、にゃー」 「いや、寝るなよ!!!!」 ぱちぱち瞬きをしたあとに、すやあと眠りに落ちる黒い猫に白髪の男の子は思わずツッコミを入れてしまう。その声にフィリアはバッと白髪の男の子の方へ振り返り「あー!」と声をあげた。 「イリスおにーちゃん、いま自分のペットにしようとしたでしょ!しようとしたよ!しようとしたんだよ!だめだよ、おにーちゃん!最初にこの子をペットにしようと決めたのはフィリアのほうなんだから!」 ウィルの手を振りほどき、白髪の男の子――イリス――の肩に手を置き、フィリアはぐわんぐわんとイリスの身体を揺さぶる。 「それを決めるのはフィリアじゃなくて、こいつなんじゃないの」 「流石です、イリスさま。お嬢さまと違って相手の意志を尊重するところ、私は誇りに思います」 「尊重しても、結局自分の意志を貫くんだから聞くだけ時間の無駄じゃないのかなってフィリアは思うの。思うよ。思ったんだよ!」 フィリアは、ぷくうっと頬を膨らませて納得いかないというのを顔全体で表している。ウィルは「お嬢さま」と名前を呼ぶと、フィリアはイリスに抱き着きながらウィルを見上げた。 「『話し合いをした』という事実さえあれば、それでよいのですよ。一方的ではありませんから」 「・・・・・・リスタニア家のそれ、フィリアよくわかんない」 「お嬢さまが、もう少し大きくなられたら分かりますよ」 「むぅ。ウィルとイリスおにーちゃんのふたりに置いてけぼりにされてるみたい」 でも、お母さまはフィリアの意見を尊重してフィリアの意見を流すことなく受け止めてくれた。いまは亡き母の記憶がふわりと蘇る。そういえば『話し合い』をすればこちらの意見を貫き通してよいという家訓は、お母さまが亡くなってからできたような・・・・・・気がするとフィリアは記憶を辿る。だが昔のことだ、うまく思い出せない。 「ところで意思疎通の魔法を使用したほうがよろしいでしょうか」 「「え」」 にこにこと微笑むウィルにイリスとフィリアは同時に固まる。 「執事は命令がないと魔法を使用してはいけないルールがありますし、そもそも魔力が封印されていて使えませんから。あははっ」 会話が成立しないことを知りながらイリスとフィリアのやり取りを見ていたことになる。そうだ、ウィルはこういう奴だった。 「「命令!(オーダー)封印解除!(リリース)」」 半ばやけくそになりながら、イリスとフィリアは封印解除の言葉を口にしたのだった。 おしまい
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