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第二十四章 ユウキ先輩との再会
翔喜と別れて飲み屋を出たハルカは
携帯を確認する。
アキヒトからの折り返しはまだなかった。
なんだかとても彼に会いたくなって、ハルカはため息をつく。
いつもそばにいてくれて、
ラインも電話も待っていたかのようにすぐに返してくれるのが
当たり前になっていた。
アキヒトは若い。
自分も二十歳のころはあったし、
他に目が行くこともあるだろうと思う。
それでも女の身体ではない、
男のままの自分でいいと言ってくれているのに
少し連絡が付かないくらいで
ワガママになってしまっている自分に
ため息が出てくる。
アキヒトに、会いたい。
会って、ぎゅっと抱きしめて「大丈夫だよ。」と言ってほしい。
トボトボと歩いていると、後ろから
「桜井やないか!」と声をかけられる。
嫌な予感がして振り向くとユウキ先輩だった。
“今、一番会いたくなかったのに。”
ハルカの顔が引きつると
「そんな顔するなよ。」
どこか寂しそうに彼がつぶやく。
「俺の事情とは言え、何も言わんと消息絶ったんは
悪かったと思ってんねん。
いきなり今更現れてなんやねんって言われても
仕方ないことはわかってるんや。」
黙るハルカに先輩はそのまま続けた。
「お前のことを忘れられへんと言いながら、
女抱いたし、結婚して子供も作った。
だけど俺は本当にお前のことが好きやから、
向こうから切り出されたときにすんなり離婚した。」
「向こうから言われたからやろ。」
「せやけど、夫婦だけの問題やあらへんやんか。
俺達にはかわいい子供が二人いてる。
これは綺麗ごとでは片づけられへん。」
「あ。」
ハルカも言われて気付く。
小学校に上がるか上がらないかの子供たち二人を
捨てるわけにはいかないだろう。
「……そうやな、確かに。」
「夫としての責任は全うできひんかったけど、
子供たちの親としての責任はせめて果たしたいと思っていたんや。
愛のない結婚の代償やな。」
もうすぐ冬がやってくる。
吹く風が冷たいな、とハルカは思った。
暖かいところでもう少し彼の話が聞きたくなる。
「どこかで飲む?」
ハルカは思わずそう口に出していた。
ユウキ先輩の目が嬉しそうに細められる。
「連れていきたい店があんねん。行こうか?」
彼はそう言うと、ハルカの背に手を当てて誘導する。
彼は黙って先輩に付いて行った。
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