第一章 向井の裏切り

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第一章 向井の裏切り

「どうするか決まったら連絡をくれ。」 向井はそう言い残し 携帯番号が書かれた名刺を置いて帰ってしまった。 佐藤さんはうつむいたままじっと動かない。 顔色は青ざめたままだった。 目の前に指輪のケースがある。 「佐藤さん、僕らは亀井先生と佐藤さんの味方やからな。」 ハルカさんが佐藤さんの前に行き、彼の肩を優しくたたく。 その途端、佐藤さんの目から涙があふれてきた。 アキヒトがポケットに突っ込んでいたハンカチを取り出して差し出す。 「……ありがとう。」 亀井先生はそんな佐藤さんに、何を言うわけでもなく 責めるわけでもなく ただ優しく見つめていた。 「ソウはきれいな心の持ち主やからな、 人を疑うことを知らん。俺はそんなソウが好きや。」 先生はハッキリと口にした。 「この店の権利がアイツにあるなら、出せる金はすべて出して買い戻すから。」 「蓮!」 「俺のせいでもあるんや、こんなことになったのも。」 先生はそう言うと、苦々しい顔をした。 「俺が忙しさにかまけて、悩んでることにも気づかんと ソウの話を鵜呑みにしてもうた。俺のせいや。」 「蓮!」 佐藤さんの目からまた涙がこぼれる。 「蓮のせいやあらへん、俺が甘かったんや。」 アキヒトはそんな二人を見ながら胸を痛めていた。 ハルカさんは難しい顔をして、考え込んでいる。 もしかしたら何か名案があるのかも。 と、アキヒトはちょっと期待しながら彼を見た。 「もう一度僕に調べさせてもらえますか?」 一同がハルカさんに注目した。 「どちらにせよまだ返事はしないでください。」 ハルカさんは佐藤さんを見つめる。彼は黙って頷いた。
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