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冴島は夜、アイスを食べる
△気がつけば冴島が横になったまま俺の方を見ていた。その印象的な目で。
冴島が外見を褒められる理由の殆どがその印象的な目にあるのではないかと俺は思っている。
二重のぱっちりとした真っ黒な目。
「何?」
じっと見つめられることなど普段はないから、なんだか居心地が悪い。
「別に何でもない」
冴島は言うとすぐに目をつむりベッドに仰向けになった。もちろん裸だ。
「服を着ろ」
冴島は毎度毎度同じ事を言わせる。
「うん」
冴島は無表情で起き上がり服を着た。
「アイスもらっていい?」
「いいよ」
普段うちにはアイスがない。甘い物は嫌いじゃないが、なぜかアイスだけは特に好きではない。
小さいころアイスを食べてお腹を壊したせいかもしれない。
だからうちにアイスがあるのは冴島が来るときだけだ。冴島が泊まりに来る時だけコンビニでアイスを買ってくる。
冴島はそんなこと知らないだろうな。
冴島は椅子の上にしゃがみ込んでアイスを食べる。ひどく行儀が悪い。でも注意すれば不機嫌になるだろうから言わない。
普段みんなの前では上機嫌なくせに、家に二人でいる時は大体不機嫌そうにしている。少し腹が立つ。
冴島はアイスをよく口からこぼす。アイスだけじゃなくて飲み物もこぼす。いい年してそれはさすがに黙っていられないので注意する。
今日も俺が買ってきたコーンアイスをポタポタ垂らして食べている。
色っぽい外見とは裏腹にそういう子供みたいなところが女の子には魅力的なようだ。そこもなんとなく腹が立つ。
「アイスこぼしてる」
俺が注意すると冴島はやはり不機嫌そうな顔をした。
※吉田の家にはいつもアイスがある。
今日は三つあった。ジャイアントコーンとガリガリ君とチョコモナカジャンボ。子供みたいなチョイスだなと思う。実際、吉田は案外子供っぽい。
「シャワー浴びな」
吉田が静かな声で言った。
「ああ」
面倒だけど吉田がうるさいので浴びる。
普段みんなの前では穏やかで物静かなのに、夜に二人だけで過ごす時は年上ぶって小言を言う。
吉田の家の浴室は狭い。そして古い。でも吉田がいつもせっせと掃除しているようでカビ一つない。吉田は意外と几帳面だ。
シャワーをざっと浴びる。面倒なので適当に洗って適当に流す。
一番嫌いなのはドライヤーで髪を乾かすことだ。そもそもドライヤーなんて開発したのはどこのどいつだ。だからいつも疲れている時は濡れた髪のままで寝る。でも吉田の家のソファで寝る時は、ソファを濡らさないように必ずドライヤーを使わないければならない。面倒だ。
シャワーとドライヤーを終えて部屋に戻ると吉田がソファの上でテレビを見ていた。
「出たよ」
吉田はうなずいた。
「ソファ借りていい?」
吉田はうなずいた。
「風呂入ってくるから。おやすみ」
「ああ」
『おやすみ』という言葉は、先に眠ってていいぞ。というサインだ。
子供じゃないんだ。そんなの自分で決めるよ。そう思うけどまあいい。
俺は吉田と入れ替わりにソファにいく。そして横たわる。
なんとなく決まっているルーティーン。
そう言えば最近テレビを見なくなった。前は深夜のテレビが好きだったのに。
目を閉じたら途端に睡魔が襲ってきた。遠くにテレビの音がする。
電源を切らないと絶対に吉田に小言を言われる。そんなの面倒だからちゃんと電源を切らなくちゃ。切らなくちゃ。切らなくちゃ。
そう思ったのに、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
△風呂から出ると、冴島は死体の様にソファでうつ伏せに眠っていた。テレビはつけっぱなし。俺はリモコンを手に取り電源を落とす。
冴島が死んでるように熟睡している青いソファは俺が買った。
本当は家具を増やしたくなかった。
この小さなリビングには一つのローテーブル、一つのテレビ、それで充分だった。
しかしそうすると冴島の眠る場所が無い。
俺と冴島は「寝る」時は一つのベッドを使うが、「眠る」時は別々がいい。
だから青いソファを買った。冴島はそんなことなど知らないだろう。
ゆるやかな眠気が襲ってきた。俺は自分のベッドにもぐりこんだ。
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