王女様の策略

1/14

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 わたしが、ここではない別の世界を旅したときのお話です。――そんな言葉から紡がれる物語があります。別の世界なんてないのだということを、読む人はみんな知っています。これは、作家が別の世界に行ったのだというていで書いた、つくりもののお話です。その物語のなかでは、世界で一番美しくありたいと、自分よりもうつくしい王女様を殺そうとしたお妃様のお話だとか、王位第一継承者である王子様が、舞踏会で見初めた平民をお妃様にするお話だとかが語られています。いくら世界が違うのだとしても、とうてい、ありえないできごとです。  けれども王女様は、その物語を熱心に読み込んでいらっしゃいました。  たったそれだけで、実の娘を殺そうとするのね。世界が違うと、人ってこうも違うのかしら? それとも、私のなかにもこんなに怖いところがあるということかしら?  わたくしを見つめる王女様の瞳は、深い森の奥にある湖のように透き通った青色でした。そんな瞳を持つ王女様の中に、怖いところなんてあるはずがないと思いました。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加