王女様の策略

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 すがるように、カールシュテイン様に視線を向けました。けれどもカールシュテイン様はまったくの無表情で、王女様を見つめていらっしゃいます。国務長官が広間に響き渡る声で王女様に問いかけます。 「アリシア第一王女殿下、ただいま述べました通り、王陛下を陥れ、王位の簒奪を企てたとの疑いが殿下にかかっております。このことについて、何か仰りたいことはあられますか?」  王女様は、何も言葉を発されません。すると、国務長官は王女様に向けて紙の束を掲げます。それは、あの日、わたくしが王女様の部屋から盗み出した手紙でした。  どうして、とカールシュテイン様を見ます。けれどもカールシュテイン様は、こちらを向いてくださいません。私の身体は、がたがたと震え始めました。 「……盗み出したのはシーラ?」  静かで、冷たい声でした。それが王女様のものだと気付いた途端、立っていられなくなって、わたくしは床にくずおれました。 「違うのです、わたくしは、」  わたくしがようやく発した声は、けれども兄に遮られました。 「はい。妹が、王女殿下のたくらみに気付き、カールシュテイン様に報告いたしました」  ――お兄様、どうして。 「わたくしは、」  王女様の青い瞳が、わたくしを見つめました。それは月夜に凍りついた真冬の湖のように、容赦のない冷たい青色でした。違うのです、王女様、と説明をしたいのに、わたくしの喉からは息の音しかしません。耳障りなざらついた呼吸音が、声の代わりにわたくしの耳に届きます。頬を水の感触が伝って、わたくしは自分が泣いていることに気が付きました。違うのです、わたくしは、王女様、わたくしは。言葉はひとつも声にならなくて、わたくしは愕然とします。 「では、殿下。王位の簒奪を企てたことをお認めになりますか?」  国務長官は私から眼差しを外して、王女様に問いかけました。「いいえ」と王女様はそれを否定されました。私は目を見ひらきます。だって、穏やかな声で判ってしまったのです。王女様は、今、この状況で微笑んでいらっしゃるのだと。 「簒奪だなんて随分穏やかね」  くすり、と王女様が息を漏らされました。 「私の望みは、陛下を弑し奉ること。王位など、それに連なるものでしかありませんわ。――ただ、それも当然頂戴いたしますけれど」  だって、と王女様はやわらかな口調で言葉を続けられます。 「私は、王位の第一継承者なのですもの」  王女様の穏やかな声とは裏腹に、室内の空気が激しく揺れました。
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