王女様の策略

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 アリシア第一王女殿下は、患いのため、王位の継承を辞退なされた。殿下について、詮索することは固く禁ず――。  そのような発表がなされてしばらくが経ったのち、王女様の御結婚がひそやかに発表されました。王位の継承権を持たない王女様は、法が変わる前と同じように、王族を離れ臣籍に下られました。王女様のお相手が誰であるのか、ほとんどの国民は知りません。さほど興味も持っていないでしょう。いま、国民の関心の先は、王位の第一継承者となられたアルベルティ公爵のご息女、カリーナ王女がカールシュテイン様と御婚約されたことについてです。カリーナ王女には兄王子がいらっしゃるので、王位の継承順位は第三位であらせられます。  わたくしは、いま、カリーナ王女にお仕えしています。カリーナ王女はお優しい方です。けれどもその翠色の瞳と、琥珀色の御髪を見つめるたびに、わたくしは泣きたいような気持ちになるのです。  わたくしは、王女様が熱心に読み込んでおられた物語をたびたび思い出します。  世界が違うと、人ってこうも違うのかしら? それとも、私のなかにもこんなに怖いところがあるということかしら?  物語を読んで、そう仰った王女様の瞳は、深い森の奥にある湖のように透き通った青色でした。そんな瞳を持つ王女様の中に、怖いところなんてあるはずがありませんでした。  誰よりもお優しくて、誰よりも聡明な王女様。王女様が愛する人と幸せでいらっしゃるのなら、これほどよろこばしいことはございません。けれども、もし。  もし、王位第一継承者である王子様が誰とも分からぬ平民の娘をお妃様にする世界なら、わたくしは今でも、王女様のおそばにいられたのでしょうか。
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