王女様の策略

2/14

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
          *  引き開けたひきだしの中には、丁寧な上塗りで仕上げられた、木目のうつくしい箱がありました。大切なブローチだから、こんなに綺麗な箱に入れていらっしゃるのね、と、わたくしは何も疑わず、それを開けてしまいました。けれども、入っていたのはブローチではなく手紙の束でした。一番上に、書きさしの便箋がひらいたまま置いてありました。見てはいけないと思いました。それなのに、蓋を閉じようとした一呼吸の間に、目が勝手に、王女様のうつくしい筆跡を拾ってしまったのです。  ばたんと閉じた箱の音にはっとして、うつくしい箱に傷を付けてしまっていないかと心配になりました。けれども確かめようにも手が震えて、箱に触れることができませんでした。浅く息を吐き、ようやくの思いでひきだしを閉めました。深く息を吐き、その隣のひきだしを開けると、透き通ったガラスの小箱の中に、やさしい光を放つ、真珠のブローチがありました。王女様は左側のひきだしと仰ったはずなのに、わたくしは右と左を間違えて覚えてしまっていたようです。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加