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大聖堂の、王族しか入ることを許されない地下で、王女様とお妃様がお話をされています。わたくしと兄は、ステンドグラスの極彩色が淡く降る広間で、姿勢を正して王女様を待ちます。やがて、きぃ、と厳かな音とともに扉がひらいて、お妃様とのお話が終わった王女様が広間に戻られました。広間を進まれる王女様の白い肌の上を、淡い極彩色が滑ります。静謐で敬虔な光を携えるようにして、王女様はわたくしたちのもとへ。「随分と待たせてしまったわ。ごめんなさいね」金色の御髪の一本一本が、神聖な煌きを纏っているかのように見えました。王女様の前では呼吸することさえ汚らわしいような心地がして、わたくしは息を止めました。苦しい、と思いました。胸のずっとずっと奥の深いところを、何かで締め付けられたように。
「シーラ?」
王女様のお声にはっとして、わたくしは呼吸を取り戻しました。「申し訳ございません、ぼうっとしておりました」と慌てて頭を下げます。
「構わないけれど、具合が悪いのではない?」
「いいえ、違います」
「そう。なら良いのだけれど」
そう仰った王女様がわたくしを見つめて微笑まれた途端、また、胸の奥の深いところが苦しくなりました。
王女様とわたくしたちは、王宮へと戻ります。その途中で、民たちが王女様に声を掛けます。兄は腰にさした剣の柄に指先をかけて、そのひとりひとりに、さりげなく目線を走らせます。王女様は、彼ら全員に、やさしい微笑みを向けられました。その微笑みを瞳にうつしながら、また胸が苦しくなったのは、いったいどういうわけなのでしょう。
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