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翌朝、王女様のもとに向かうと、王女様は新聞を読んでおられたようでした。
「あら、シーラ。おはよう」
王女様がわたくしに声を掛けてくださったとき、青い瞳はきちんと光を放っていました。けれどもわたくしは、声を発する前の瞳が、ガラス玉のようになっていたのを見逃しませんでした。
新聞には、レオンのことが書かれています。王陛下へ不義をはたらいたシルヴィア元妃、その子。穢れた血族、またも王族へ取り入らんとす――
「シーラ、どうして泣くの?」
王女様のなよやかな指が、わたくしの頬に触れました。「申し訳ございません」と、首を竦めました。わたくしは、王女様の指を汚してしまったのです。「大丈夫よ」と王女様は微笑まれます。
「私とヴィンセントとの婚約が発表されたなら、こんな記事はもう出なくなるわ」
ほんとうに泣きたいのは、王女様のはずなのです。それなのに、王女様はやさしく微笑まれます。レオンがどんな状況にあろうと、わたくしの知るところではありません。けれども、王女様の恋が汚らわしいものとされてしまったこと、そして、王女様が苦しい微笑みを浮かべられるのが、わたくしは悲しいのです。
「だから泣かなくてもいいの。それに、」
そこまで仰ったところで、王女様はひとつ、まばたきをされました。そして言葉の続きは言わず、微笑みを浮かべたまま、わたくしの髪を撫でてくださいました。「大変、失礼いたしました」と深く頭を下げながら、わたくしの目の奥には、王女様のうつくしい筆跡が浮かんでいました。
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