1.屋根裏の書簡

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1.屋根裏の書簡

 僕が屋根裏にあるその小部屋に入ったのは、学校に入る前が最後だったかもしれない。だとすると、もう二十期以上前のことになる。建てられてから百期を超す時間を重ねた我が屋敷の中でも、この小部屋は特に古臭く黴臭い場所。なぜそこに足を踏み入れる気になったのか―今となってはその動機は思い出せない。大学の夏休みに帰省し暇を持て余していたから、単なる時間潰しが理由だったのかもしれない。だが、その日は家族や使用人でもめったに使わない三階の突き当たりにある階段を上がり、さらにその先の梯子まで登って、屋根裏部屋へと向かった。  小さな窓が一つきりの屋根裏は、分厚い埃に包まれ、黴の匂いに支配されていた。その日は蒸し暑い日だったが、室内は少しひんやりとしていた。古い燭台や長椅子、机などが乱雑に積み上げられ、壁には埃をかぶった肖像画がいくつか飾られていた。かつては居間や寝室や客間にあったであろう、それらの装飾品や家具の類は、まるで時間が止まっていたかのように、ひっそりとそこにあった。  窓から最も離れた薄暗い壁際には、書類や衣類を収めた木箱が山積みされていた。その数はざっと二十ほど。なかには箱そのものが腐食して壊れかかっているものもあった。  その中の一つは特に壊れ方がひどく、本や書類が顔をのぞかせていた。ちょっとした好奇心で、僕はその箱を開けてみた。何十期もの間、誰の手にも触れることがなかった箱からは、埃が粉雪のように舞い上がり、僕は少し咳込んだ。  箱の中には古い本と書類の束が無秩序に収められていた。本は当然のことながら、ほとんどが考古学に関するもので、著者は全てハムス・カー。私の曽祖父のものだった。
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