4.洞窟調査書

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 洞窟の壁の所々には溝が切ってありました。以前そこには鉄の扉があったのではないか、と学者先生たちは言っていました。溝には錆びのような赤い色が残っていましたが、扉は跡形もなかったです。鉄が全く消えてなくなるくらいの時間って、どのくらいなんでしょうか。私には想像もつきません。  二時間おきに休憩を取りながら、半日ほど歩いたところで、入口にあったような落盤地帯がありました。ここも誰かが意図的に岩を積み上げ、粘土で固めて塞いだのです。私はそのとき、この遺跡に足を踏み入れてはいけないのではないか、と感じました。  その地点を突破するのに、四日を要しました。真っ暗な穴倉の中で過ごす気分というのは、経験したものでなければ分かりません。明かりの届かない範囲は全くの暗闇なので、とにかく不気味で心細いものです。加えて中は湿気で蒸しています。もちろんシャワーなんてないので、首や脇にまとわりつく汗が気持ち悪く、不快の一言でした。それでも逃げ出さなかったのは、やはり家族のことを考えたからです。この調査が終われば、まとまった金が手に入る。女房と子供の顔を思い出して、何とか耐えました。  ですが、五日目の朝、朝といっても穴の中は真っ暗ですが、毎日午前七時から行動を開始していましたので、そのくらいの時間です。寝袋から出ようと思ったら、やたらと体がだるい。風邪をひいたのかと思いましたが、尋常でない吐き気に襲われ、やがて鼻血が止まらなくなり、風邪のような生易しいものではないと思いました。
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