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王宮通りから一筋裏通りに入ると、ガス灯の明かりも届かぬ夜の闇が辺りを支配していた。普段なら、このような危険な小路には足を運ばない。しかし、今日は特別だ。誰にも、特にアカデミーの関係者の目につくことだけは、絶対に避けなければならなかった。そのような話をする場として、ここは最適と言える。
バー「穴倉」は小路の奥まった一角にひっそりと入口があった。看板は目につきづらく、店を知らなければ、それがバーだとは誰も気付くまい。身を屈めなければ入れないほど狭い入口をくぐると、その名の通り「穴倉」が続いていた。天井が低く、人同士が触れ合わずにすれ違えないほど狭い石造りの通路を進むと、自然と息苦しさを感じた。オムスの遺跡に入った人たちも、同じような気持ちを味わったのだろうか。
蝋燭だけが灯された薄暗い通路の両脇には小さなドアがいくつかある。僕はその一つを開けた。
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