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「やあ、ここはいつ来ても不気味で快適とは言い難い雰囲気だが、なぜだか落ち着くな」
テッドはすでに個室に陣取り、ビールをあおっていた。僕が姿を見せると、左手でグラスを掲げた。
「すまん。呼び出しておきながら時間に遅れるなんて」
「構わんよ。今日はなぜか用事が早く片付いた。旧友と酒を酌み交わすにはいい夜だ」
僕が席につくと、テッドは館内電話を取った。
「ビールを持ってきてくれ、大きな容器でな。樽ごとでもいいぞ」
そう言ってテッドは僕に向かってウインクした。
近況など他愛のない話を重ねていると、店員がビールを運んできた。
「それでは、まず再会に乾杯だな」
「ああ」
僕とテッドはグラスを合わせ、中にあるビールを一気にあおった。屋根裏部屋でハムスの書簡を見つけて以降、何かと考え込む日々が続いていたが、喉を下っていくビールがもやもやの塊を押し流してくれるような心地良い感覚があった。
「ふう…」
僕が一息ついていると、テッドは妙に真面目な顔をして訊いた。
「ところで、誰にも聞かれたくない話ってのは何なんだ」
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