6.テッドの助言

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 僕は絶対に口外しないという誓いを立てさせた上で、曽祖父ハムス・カーの書簡を、テッドに示した。  テッドはハムスの書簡を、僕が読んだのと同じ順番で、ゆっくりと読んだ。特に、遺言書は何度も読み返していた。最後の手書きの一枚も、繰り返し読み直した。いつもは雄弁なテッドも、書簡を読んでいる間、一言も発しなかった。 「うそだろう、これが僕の最初の感想。しかし、アカデミーの上奏書は本物だ。アイラ・ケルヒ、サンバント・アルラ、この二人の署名は実際に何度も見たことがあるが、これはまさに本人のもの。これは捏造ではない」 「真偽に疑いがないとすると、書いてある中身はどうだい」  テッドは腕を組んだ。彼が物事を深く考えるときの癖だ。 「オムスの遺跡、それが本当に存在するのなら、当然詳しく調べるべきだ。前文明の遺物が見つかれば、我々の歴史は大きく変わる。政治も宗教もその影響からは免れ得ない」 「しかし…」 「なぜ一回きりの調査団派遣で終わってしまったのか。それが分からない。手書きの文書をみる限り、生き残った者がほとんどいないようだ。それなら、危険に対する充分な備えをして第二陣の調査団を送り出すのが、科学者のあるべき態度だと思う」 「得られる情報がとびきり貴重なだけに」 「その通り。ここ数代の王の時代を通じて、これほどの重大な発見を見たことがない。こんな大発見を目の前にして、この洞窟に何が隠されているのかも突き止めずに調査を中途半端で終わらせる決断をするなんて信じられない。何か重要な事実をつかんで、それを隠蔽したと考えるのが妥当だ」  僕は大きく頷いた。 「言いづらいことだが、その秘密には曽祖父も一枚噛んでいたらしい」 「ハムス・カー。遺言書を読む限り、彼はそれを大層悔やんでいたようだな」 「僕にこの書簡を読まない選択はなかった」 「そりゃそうだろう。この遺言書を読んで、その先を知りたいと思わない科学者なんているはずがない。読まない奴は腑抜けだ」 「読んではみたが、謎は深まるばかりだ。真実を知りたいという思いが日に日に強くなり、僕の心と頭を支配しているが、この先に進んで良いものか、正直、迷っている」  僕の告白を聞き、テッドはしばらく俯いたまま黙っていた。しかし、意を決したように顔を上げ、真っ直ぐ僕を見て言った。 「ハムス・カーがなぜこの文書を残したのか―。それは真実を後世に伝えたかったからじゃないのか。重大な発見を永遠の秘密にしたくなかった君の曽祖父は真の科学者だと、僕は思うよ。ひ孫の君が一族の誇りに賭けて、その願いを実現するというのは、悪くない筋書きだと思うがね。いや、ぜひそうするべきだ」
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