8.資料室

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 廊下の角をいくつも曲がり、階段を上り下りして通されたのは資料倉庫だった。大学の大講義室くらいの広さがあるが、暖房が入っておらず、室内は冷蔵庫の中のように寒々としていた。 「暖かい会議室を使っていただいても良かったのですが、なにぶん資料が膨大な量なので、いちいち会議室に運ぶより、こちらで直接調べられた方がお仕事は進むと思います」 「ご親切にありがとう。ここで充分、いや、ここが最高です」  僕がちょっと大げさに言うと、ルルはにっこりと笑った。地味だった表情に花が咲いたように明るさが宿った。 「病院報はこちらの棚に期ごとに並んでいます。あと…」 「医療記録簿はあっちですね」  ルルは頷いた。 「あそこから奥が全部医療記録簿です」  ルルが指し示す先を見て、自然と溜息が漏れた。医師が診察室で記載するカードが棚にきちんとファイルされていて、それが部屋の半分近くを占めている。すごい数だ。 「医療記録は廃棄せず、全て保存しているのですね」 「はい、それが当療養所の方針です。これを全部調べるには、何カ月もかかりますよ」 <全部なら確かにそうなる。だが、僕が知りたいのはオムス事件の直後だけだ。時期は分かっている。イホシス王の二十四期> 「大丈夫です。隅から隅まで調べる訳ではありませんので、夕方までには終わります。それ以上のご迷惑はお掛けしないつもりです」  ルルは小さく頷き、言った。 「時間がもったいないでしょうから、私はいったん失礼します。ご存分にお調べになってください。終わりましたら内線電話の0番をお呼びください」  ルルが資料室から退出した後、僕はすぐに目的のイホシス王二十四期の医療記録の棚を探し、片っ端から調べ始めた。
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