9.アテンの末裔

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9.アテンの末裔

 イホシス王二十四期だけで、患者は七、八百人ほどいた。だが、目指す患者群を調べるのに、手がかりが一つあった。  曽祖父の書簡箱にあった聞き取り報告書に登場したポーターのヘムラ・ウルマとカムロ・ハムラ、この二人も療養所に隔離されていた。二人が見つかれば、その周辺に目指す患者群があるに違いない。  九十期も前の紙は茶色く変色し、かなり痛んでいた。慎重に触らないと破れたり、崩れたりしてしまう。僕は一枚一枚、慎重にめくりながら、ヘムラとカムロの名前を探した。  一時間ほど医療記録と格闘したところで二人の医療記録に行き当たった。二人とも入院したのは二十四期、秋の入口に当たる九月十五日、オムス遺跡の調査に出発したのは上奏書によると七月だから、事件の直後にここへとやって来たということで、時期的には符合する。  ヘムラとカムロの二人は軽症で済んだようだ。入院後、一カ月後には全快したと記されている。だが…。 「何だこれは」  二人とも、記録の末尾には死亡日時が記載されていた。ヘムラはアメン王の十六年、カムロはアメン王の二十一年に没したとある。二人はこの療養所で死んだのだ。 「全快した後、四十年近くもこの療養所に閉じ込められていたのか…」  ヘムラは聞き取りに対して、秘密保持契約にサインしたと答えていた。だが、契約があるにもかかわらず、病気でもないのにそのまま療養所で一生を終える羽目になった。それほど隠している秘密は大きなものなのか。僕は医療記録を手にしばし茫然としていた。 このような強引な措置がアカデミーの力だけでできる訳がない。政治や王室が認めたから可能になったはずだ。ヘムラとカムロが愛する家族と切り離され、悲憤の日々を送ったことを想像し、僕は心底彼らに同情し、同時に自分が探ろうとしている秘密の重大さに改めて慄然とした。
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