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「すまない。君の言う通り、最初に話した調査の目的と内容は嘘だ。だが、これには訳がある」
僕はやっとの思いで口を開いた。
「しかし、その訳を話すことはできないんだ」
ルルは黙って、僕の話の続きを待っていた。気まずい沈黙に耐え切れず、僕は再び口を開いた。
「信じてもらえないかもしれないが、九十期前、この療養所に入院していた患者のことを調べに来た。それは別の大きな問題を解き明かす手がかりになるはずなんだ」
ルルは一言も発しない。口を一文字に結び、続く言葉を待っている。
「その問題が何なのか、その正体を僕はまだ掴めていない。今は取っ掛かりを調べている段階で、この療養所は唯一の端緒だったんだ」
少し落ち着いた僕は覚悟を決めた。今、ルルに説明できるはここまでだ。これで納得してもらえないなら、通報されてもやむを得ない。
「問題の正体を掴めていないとおっしゃいましたね。あのハムス・カーの子孫なのに?」
再びルルは驚きの言葉を口にした。なぜここで曽祖父の名がでてくる。そして、「あの」とはどういう意味なのだ。僕はルルの言わんとしていることがにわかに理解できなかった。
「どういうことなのかな」
「ハムス・カーは事の真相を残してはいなかったの?」
僕は蒼ざめた。彼女は曽祖父の秘密を知っているのか。いやそんなことがあるはずはない。
「もちろん私はお会いしたことはありませんが、事が起こったとき、この療養所に一年以上滞在して、いろいろと調べられたのは、ハムス・カー、あなたの曽祖父です。事の顛末を誰よりも詳しく知っておられたはずなんです」
どうして…彼女は僕でさえ知らない曽祖父の当時の行動を知っているのだ。
「患者一人一人から詳しく話を聞いたのは、後にも先にもハムス・カーただ一人。その曾孫が再び療養所で祖母のことを調べている。これはどうしてなのかしら」
祖母? そのとき、僕の脳裏に名前が蘇った。遺跡の最下部まで行った人間のうち、唯一生き残った女性。キラ・アテン。
「君の名はルル・アテンだったね」
「やっとお分かりのようね」
「お孫さんだったのか…」
ルルは最初にここを訪れたときと同じく微かに微笑んだ。
「祖母に直接会ったことはありません。私が生まれる前に亡くなりましたから。ですが、母親を経て伝えられたことがあります。祖母は『百期を経た後、ハムス・カーの末裔に手渡すように』とある文書を残しています。事が起こってから百期が経つには、あと十期ほど残されていますが、今願いを果たしても、祖母は許してくれると思います」
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