3.上奏

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上奏 国王陛下 王立アカデミー 総裁 サンバント・アルラ  国王陛下の名において、遺跡調査を命じることをお許しいただきたく、上奏文をしたためております。これはひとえに人類史、惑星史の解明に資すると確信したからであります。  先に国王陛下のお耳にいれさせていただいた辺境オムスの遺跡については、王立科学大のアイラ・ケルヒ教授から報告を受けた時、私はにわかに信じがたい気持ちがしました。信じがたいのは、二つの意味においてであります。  一つは少なくとも五万期以上前に、我々の科学力ですら建設が難しいような巨大な構造物を完成させうる高度な文明社会があったという仮説であります。この惑星が誕生してから数十億期が経過しております。考古学、地質学、生物学的な知見からは、生命は徐々に進化を重ねて、今の人類の時代となったことが明らかになっております。  現在、我々が知り得る最も古い遺物はせいぜい三千から四千期前のものであり、前文明の存在は、可能性としては指摘できうるものの、存在したという明確な証拠は未だ皆無であります。五万期以上前に高度な文明社会が存在したという証拠が見つかれば、従来の考古学のみならず、科学や宗教など全ての分野に影響を及ぼす重大な発見となります。それが突然現れた。科学者としてはにわかに信じろという方が難しいのではないでしょうか。  二つ目はケルヒ教授が、そのような話を真に受けたという事実であります。教授は国際考古学学会の理事を務め、これまでに世界各地の大規模遺跡で調査の陣頭指揮をいくつも執ってきました。そのケルヒ氏が、口角泡を飛ばす勢いで、この話を持ちかけてきたのですから、驚いたものです。民間の自称歴史学者ならともかく、あのケルヒ氏だからです。
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