第二章 ドラゴン

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第二章 ドラゴン

 妖精にも服の趣味嗜好というものがあるらしい。  「この色は?」  私の言葉に短髪の妖精が首を横に振る。  「ダメか……」  持っていた華やかな赤色の花びらを一旦作業台の上に下ろし、他に良さそうな色を探す。「作業台」と言ってもドラゴンさんが人間の姿になって適当に切った木の板を適当につなぎ合わせただけの簡易的なものだが、私の仕事には十分だ。  今度は薄い茶色の枯れ葉を短髪の妖精の前に持ち上げる。  「じゃあ逆に、これはどう?」  妖精は嬉しそうに首を縦に振り、私の周りを飛び回った。  「へー、意外。今までの妖精さんは、大体みんな派手で綺麗な色が好きだったのに、あなたは好みが渋いんだね。材料の在庫が偏ってたから正直助かるよー」  同じような葉っぱと、地味な色の糸や装飾品を数個持ち上げて、妖精に聞く。  「じゃあ、これで作って良いかな」  妖精は私の手から茶色い木の実をバッと奪うと、作業台の上に戻し、そこから鮮やかな赤い実を代わりに取ってきて、ニコっと私に差し出した。やっぱり完全に全て茶色は少し抵抗があるらしい。  「かしこまりました」  少し笑って言う。  妖精達は言葉を話せないが、意志がはっきりしていてわかりやすい。私は結構好きだ。  そして何よりも彼らは見た目が可愛らしい。  妖精は目がぱっちりとして人間とは違って黒目が無いようだが、それ以外は頭身の少しおかしい人間のような姿形をしている。全員緑色に薄く発光しているので見た目も似ているのかなーと何となく思っていたら、結構見分けがつく程度の違いがあったので、個体で認識し仲良くしたりもできる。  今、服の打ち合わせをしている妖精は短髪で少し切れ目、そしてよく笑う。私がせっせと枯れ葉に小さな穴をあけ、糸を通している間も満面の笑みで私を見つめている。  「随分嬉しそうだね。服ができるの楽しみ?」  妖精は思いっきり頷いた。可愛い。  「私もね、この家作ってもらった時は嬉しかったよ。こじんまりしてるけど素敵な家でしょ?」  妖精は周りを見渡し、不思議そうな顔をした。眠りも休みもしない妖精には、家の概念がよくわからないのだろうか。  私が森に着てから数日間、ドラゴンさんは面倒だとか言って私を原っぱで眠らせていたが、私と私に同情してくれたヴィヴィの必死の説得により、この家を作ってくれた。家と言っても人が二人寝そべれるほどの広さしかない、簡単な丸太を重ねたような建物だが、私は結構気に入っている。ちゃんとベッドのようなものも付いているし、屋内で作業できると風に材料が飛ばされる心配もない。  「でも、ドラゴンさんも照れ屋さんだよねー」  妖精は賛同するようにクスクスと笑った。  「家作るつもりだったなら言ってくれても良いのに、急に完成した家見せてくるからびっくりしたよ。いやあ、ああ見えて優しいところもあるんだね」  糸を通してつなぎ合わせた枯れ葉を円柱型に丸め、赤い木の実と草を使って固定する。小型のナイフを使って形を調整し、妖精に当ててサイズを確認をし、着せてみる。よし、ピッタリだ。  「はい、完成しました。どう?」  短髪の妖精は新しい服を着て数回クルクルと回り、私の近づいたかと思うと、私の顔にピトッとくっついた。  「ふぐぐぐぐう……」   大きさ的に鼻と口が両方ギリギリ隠れるので苦しい。しかしまあ、気に入ってくださったようで何よりだ。妖精はしばらく取れなかった。
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