第二章 ドラゴン

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 「あ、おはよう」  夜だけど、と思いつつ挨拶をする。  「…………」  ドラゴンさんは答えず、私の顔を眺めた。怒られる覚悟を決めて微笑んだまま見つめ返した。  しかし、反応があまりないので戸惑っていると、ドラゴンさんの目が急にカッと開き、顔がバッと上がった。  「み、ミシュカ?なんでここにいるんだ、お前」  「材料が切れたからヴィヴィさんを探してたの」  「は?あ、妖精の服の材料か。ヴィヴィならここにはいない」  なんか少し慌てている。勝手に寝顔を見られたからだろうか。罪悪感を感じる。  「ここがドラゴンさんの家なの?気持ちの良いところだね」  「ああ」ドラゴンさんは顔を埋めるようにまた腕の上に下ろした。「材料なら明日の朝やるから、お前はこれ以上暗くなる前に早く帰ろ」  「私もそうしたいんだけどね、迷っちゃって帰り方がわからなくて」  返事を待つが、ドラゴンさんは動かない。  「だから、道を教えてくれたら嬉しいんだけど」  「……面倒臭い」  予想以上にぶっきらぼうな返事が帰ってきた。まあそうだろう。  じゃあ私はどうすれば良いのだろうか。さっきよりも森は暗くなっているからまた彷徨うのは嫌だし、ドラゴンさんはここで寝させてはくれないだろうし。  突然ドラゴンさんがすごい勢いで立ち上がった。風圧で後ろに倒れそうになる。   「ついてこい」  と言って彼は森の中へ歩き出した。  面白くて笑いそうになるがここで笑うとドラゴンさんの気が変わってしまいそうだ。  「ありがとうー」  私も追いかけて森の中へ入る。  やっぱり木々の中はドラゴンさんと一緒に歩くに限る、と思った。木が勝手に避けてくれるから歩きやすいのももちろんあるが、なにせ彼は森の守護者という肩書きを持っているので森の中にさえいれば誰も害を成せないのだーー多分。その確証だけで、かなり安心して陰を無視できる。   本人の意思はともかくとして、だが。  「どうせだからヴィヴィの家の場所にも教えておく」  「うん、助かる」  「お前人間のくせに結構図々しいな……」  まだ私は嫌われてしまっているようだ。  ドラゴンさんはよく「人間のくせに」という。森の守護者であるドラゴンの彼からすれば私のような人間なんてどうでもいい、目下の存在なのだろうか。それも少し悲しいような気がする。  その後、私達はヴィヴィの家に行った。距離はドラゴンさんの家からそれ程遠くなく、割とすぐ着けるようだ。童話に出てきそうな木でできた家で、すぐ外に小さな菜園があった。到着すると、  「おー、よく来たねぇ、丁度良い!」  とものすごく歓迎され、謎の薬品作りに手伝わされた。  ヴィヴィはいつも好き放題に研究ばかりしているようで、私よりは広い家に住んでいるのに物がありすぎて、どこで寝ているのか純粋な疑問が湧く。そしてなぜ既に仕事を与えられている私が、ヴィヴィの趣味を手伝わなければならないのか。  しかし、淡々とした作業は結構好きだし、ドラゴンさんの人間の姿を初めて見れたから、まあよしとしよう。今までは、ドラゴンさんにもヴィヴィにも少し、避けられていたような気がしていたら一緒に居られるのは純粋に嬉しい。  結局、材料不足について言い忘れてしまったので、次の日の朝もヴィヴィの家を訪れる羽目になったが、道を覚えられていた。誰も褒めてくれなかったけど、家の近い友達ができたみたいだ、とほんの少し誇らしかった。  
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