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第二章 王女
ミシュカ・ロジュノストの友人は誰も居なかった。
「なんでですか!」
「なんでかしらねぇ」
アメルとドロテアは早速行き詰まっていた。
どれだけ聞き回っても、ミシュカと親しい人は誰も居ない、と使用人達は口を揃えて言うのだった。しかしドロテアの情報ではミシュカは明るい性格から友人がたくさんいるとの評判だったのに、これでは情報が矛盾している。
「情報屋の嘘だったんですよ、きっと」
「えええ、でも私、結構あの人の常連さんなのよ?適当な情報を流すような人ではないと思うのだけれど、おかしいわね」
広い廊下に等間隔で開いた窓の枠の上に座り、ドロテアは持っていた紙を見返した。その様子を眺めながら、これはただの失踪事件ではないのだ、とアメルは実は少し興奮していた。でも、
「さすがに情報屋さんも個人名までは書いておいてくれてないし、どうしようかしら」
かなり楽しそうなドロテアを横目で冷ややかに眺めて、彼女は
「お部屋に戻って、今頃困惑しているであろう先生の授業をお受けになって差し上げるのはどうでしょうか」
と言った。私がしっかりしなければ。
「あら嫌だ、アメルったら面白いこと言うわね」
「冗談のつもりは一切ありません」
「あ、あの!」
突然会話に割り込んだ声に反応し、二人がその方角を向くと、そこにはドロテアよりも数歳年下に見える少年が立っていた。二人の視線に、少年は怯えた様子で後ずさりをし、
「わ、や、やっぱり良いです、申し訳ありません!」
と言って後ろを向いて走り出した。
「あ、逃げました」
「報告は良いから、アメル、捕まえて!」
ドロテアが逃げ出した少年を指差し、アメルは反射的に駆け出した。
全力疾走で廊下を通る。靴が地面を打つ音を聞いて少年が振り返り、ヒィと小さく声をあげた。偶然誰もいなくて良かったな、と考えながらあっと言う間に追いついた小柄な少年の腕を掴んだ。そのまま少年に抵抗する間を与えずに、体を回転させて、
「うりゃ」
ドロテアの方へぶん投げる。
「わあああ!」
少年が勢いでよろめく。
「よっと」
放り飛ばされて来た少年をドロテアが軽く受け止め、肩をしっかり掴んだ。少年は一瞬逃げようとしたが、王女の笑顔を見て落ち着いたのか諦めたのか抵抗をやめた。
ドロテアは気にせず、肩を掴まれたままの少年に言った。
「で、あなた、私達に何を言おうとしてたのかしら?」
少年は何も言わずにアメルをチラチラと見た。
「アメル、あなた怖がられてしまっているわ」
「……それは申し訳ありませんでした」
ドロテアが黙ったままの少年の肩から手を離す。彼はスススと数歩下がり、警戒心丸出しでアメル達から距離をとった。アメルは失礼な、と思ったがこれ以上少年を追い詰めても意味がないので、また窓枠に腰をかけたドロテアの横に移動した。
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