第二章 王女

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 アメルが少しかがみ、少年と目線と合わせる。  「手荒な真似をしてしまってすみません、あなた、確か厨房にいる見習いの、えぇと……」  微笑んで少年が名乗るのを待つ。が、反応がなく、誰も何も言わないまま数秒がすぎた。  ドロテアが窓枠から少し大きめの声で言った。  「あなた、名前はなんと言うの?」  「……!え、あ、マンティです」  少年は答えた。まあ彼の名前なんてどうでも良いのだが、とアメルは思った。  「で、何が言いたかったのかしら?逃げ出す前に」  「いや、あ、あの、すみません、王女様とアメルティア様がミシュカさんの友人を探している、と聞いたので……」  ドロテアとアメルが顔を見合わせた。  「あなた、ミシュカ・ロジュノストと親しいんですか?」  アメルが聞くと、少年は少し困ったような顔をして、  「えっと、まあ、親しいような……親しくないような……ただ、ミシュカさんと親しい人は、恐らくそのことをあまり教えてくれないと、えっと、思います」  と言った。  アメルが体を乗り出した。  「どういうことですか?」  少年はまたヒィ、と小さく声をあげたがドロテアの笑顔を確認して姿勢を直した。  「そ、その、最近、若い女の人がいなくなる事件がいっぱいあったんですけど」  「知っています」  「ひぇ、あ、はい。それで、いなくなった人達がみんな、ミシュカさんと仲の良い人達でして……」  「ミシュカと仲の良い人達?」  「な、なので、ミシュカさんと親しいと拐われる、という噂が使用人の間で流れているんです」  「ほう……」  ああ、なるほど。だから誰も名乗りをあげなくて、この少年も決心が固まらず、私達から逃げようとした訳だ。アメルは納得した。しかし、ミシュカの周囲の人間だけ消えていると言うのは、やはり、ミシュカが何か事件の中枢と関係しているのだろうか。  「じゃあ、あなたはどうして私達にミシュカさんと親しい、って教えてくれたのかしら?拐われてしまうかもしれないわよ?」  ドロテアが言った。  「え、あ、え?」少年がまた数歩下がる。「あ、あの、若い女の人しかいなくならない、と思って大丈夫かな、と思ったんです、けど」  「あら、そんなことわからないじゃない」  この人楽しんでるな、とアメルは思って苦笑いをした。  「あなたは少女達が消えた理由とか、どこにいるとか、何か知ってるんですか?」  アメルの質問に少年は彼女の顔色を伺いながら首を横に振った。  「いえ、申し訳ありません、特に何も知らないです……本当に……。あ、でも、ミシュカさんの行きつけだったお店なら知ってます、けど」  「それで十分です。ね、ドロテア様」  「ええ、そうね」  アメルは情報が手に入って胸が高揚し始めるのを感じていた。行きつけのお店、だけでは何もかもがわかるわけではないかもしれないが、困ったらまたこの少年から色々聞き出せば良いのだ。  幸い、身分上人から情報を聞き出すのには困らない。  「君、そのお店、どこにあるのか教えてくれますか?」  「え、あ、はい」
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