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ドラゴンさんは右を向き、また私から目を逸らすようにベッドの足元の方にある窓の外を見た。今回は照れている訳ではないようだ。
嫌だな、と思った。
「ーーお前、ドラゴンの使える魔法は知ってるか」
首を左右に振る。
「知らない。だって、そういう記憶も消えちゃってるし」
「……そうか」
ドラゴンさんはそれだけ言うと黙ってしまった。
会話が途絶えたようなので妖精の服の製作に戻る。しばらく誰も何も言わず、私は淡々と作業し服を完成させた。
完成した服を着た妖精が窓から出ていくのを、手を振って見送り、一息着いてから物思いにふけっているドラゴンさんに言う。
「ドラゴンさん、さっきの質問、結局答えてくれないの」
急に声をかけられてドラゴンさんが少しビクッとする。でも、すぐに無表情になって私の方を向いた。
「お前は知らなくても良いことだ」
なんか、前も同じこと言ってたな、と思った。ドラゴンさん、もしかして機嫌悪くなってる?
「じゃあ良いや」
ドラゴンさんが話したくないのなら、この話題はあまり持ち上げないようにしよう。最近忘れかけていたけど、ドラゴンさんは一応ドラゴンで、私の何百倍も力のあるのだから、機嫌は損ねない方が良いのかもしれない。正直全然怖くないけど。
次の妖精が窓から入ってきた。八重歯の目立つ妖精だった。好きな色や材料を確認し、妖精と話す私を、ドラゴンさんはまた静かに眺め、たまに会話に参加した。
結局、その日の最後の妖精が出て行くまでドラゴンさんは私の家に居座りつづけた。そして、最後まで質問の答えは聞き出せないままだったが、独り言じゃない会話を誰かとできるのはちょっと楽しかったので、深く考えないことにした。
明日も、来てくれるのだろうか。
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