第三章 王女

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 店は、飲食店だけあって中は意外と清潔だった。周囲がお世辞にも綺麗とは呼べない建物で囲まれていた上、店自体も「ボロ」っという効果音が斜め上の方角に浮いてそうな外観だったため、アメルは驚いていた。  エプロンを着た中年の女性が二人を迎え入れる。  「いらっしゃい!」  結構繁盛しているようで、店の中には数組の客がいた。ドロテアとアメルが入店すると、客が物珍しそうに二人をチラチラと眺め、店内が騒ついた。  やはり、目立ってしまうようだ。アメルは袖の中の短刀をいつでも出せるように、と手をゆっくり体の前で組んだ。そんなアメルに気づいているのか気づいていないのか、ドロテアは一歩前に踏み出して二人を迎えた女将らしき女性に言った。  「すみません、今日は食事じゃなくて聞きたいことがあって来たんです」  「聞きたいこと?」  「はい」  なんだ、ドロテア様もその気になればまともな人っぽい言葉遣いができるんじゃないか、とアメルは少し感心していた。いつもあんな偉そうなのに、あえて庶民っぽい話し方をしている。  「ミシュカ・ロジュノストという女の人のこと、知ってますか?」  ちょっとドロテア様、直接的に聞きすぎです、とアメルは思ったが黙っておく。  「ああ、うん、ミシュカちゃんならうちの常連さんだよ。なんでこんな汚いとこ来てくれるのか知らないけど」女性は頬に片手をあて、首を傾げた。「そう言えば最近あまり来なくなっててね、ミシュカちゃんがくるとむさ苦しいお店がちょっと華やかになるから楽しかったんだけどねぇ」  「へぇ、そうなんですか。ミシュカ、とても明るい子ですよね」  「そうそう、よくお友達とかも連れてきてくれてくれるんだよ。ミシュカちゃんのこと、探してんのかい?」  「はい。ここなら見つかるかも、って聞いてて」  女将とドロテアの話を、顔で正体バレないかな、とかなり不安な気持ちでアメルは眺めていた。が、後ろから人の気配がしたので振り向く。  「うわ、ビックリした」  後ろにいたのはアメルと同い年くらいのように見える青年だった。彼が突然のアメルの動きに驚いて一歩下がる様子を静かに眺める。  彼は、店の客のようで、他の客と同じような質素で色のない服を着ていた。だが、この辺りに住んでいるにしては髪と顔が整っていて、庶民にとっては手の届かない値であるはずの眼鏡をかけていたので、違和感を感じる姿をしていた。簡単にいえば、胡散臭い。アメルは目を細めた。  「あれ、バハル、どうしたんだい」  女将が青年に言った。  バハルと呼ばれた青年は微笑んでまたドロテア達に近づいた。アメルが少し身構える。  「いやぁ、ミシュカを探している、って言ってるのが聞こえたので」  アメルがハッと青年の顔を見た。ドロテアが首を傾げる。  「ミシュカがどこにいるか、知ってるんですか?」  「はい、案内しましょうか?」  さらっと言ったバハルを見て、ドロテアとアメルは一瞬固まった。が、すぐに二人は彼に背中を向けて小声で話し始めた。  「どう思う?」  「怪しいですね」  「まあ、そうね。でも、女将さんも知り合いみたいよ」  「でも、やっぱり少し危険では……」  「そんなこと言ったって手がかりは彼しかないじゃない!」  「そうかもしれないですけど」  「…………」  「…………」
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