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やっとの思いで真っすぐ立ち、着々と歩き続けているドラゴンの方を見る。あんな巨体でどうやって木が密集した森の中を歩くつもりなのか、と疑問に思っていると、謎はすぐに解明された。不思議なことに、ドラゴンが木の枝や幹にぶつかりそうになると、それらは自我があるようにぐにゃりぐにゃりと曲がり、大きな生物が通れるほどの道を作った。その植物は、ご丁寧に私が通り終わるのを待ってくれてから形を元に戻した。
「あなた、本当に森のドラゴンさんなんだね」
と後ろから声をかけると、
「黙って歩け」
怒られてしまった。
私はこのドラゴンの存在を知っている。私はなぜこのドラゴンの存在を知っているのだろうか。そうだ、噂で聞いたことがある。確か、街では有名な北の森の守護者ーー街?
そうだ、私は街のあるところに住んでいて、そこでこのドラゴンの評判を聞いたことがある。どういうわけかそれは思い出せた。
しかしこのドラゴン、ものすごく私のことが嫌いなようなのに、なぜわざわざ私を拾ったのだろう?って言うか、「拾った」とはどういうことだ?私の過去と関係あるのだろうか?
疑問が溜まりまくる私の心情をよそに、ドラゴンは着々と木々の中を歩き続けた。声をかけても答えてくれなさそうなので黙ってその後を必死で追いかける。こころなしか体が重くて思うように動かない上に、足元まであるスカートの裾が私の邪魔をする。
しばらく経つと木々の向こうに原っぱが見えた。
「わぁー、綺麗」
無意識のうちに声が出ていた。
森の中にポツンとある木のない小さな草原。そこは記憶のない私にもわかるほど、神秘的で美しい場所だった。
まるで誰も踏んだことがないように伸び伸びと生い茂る草や色とりどりの花、頭上に何の遮りもなく広がる空(晴天じゃないのが少し惜しい)、そしてそこら中を飛び回っている小さな淡い緑の光。絵本の挿絵を現実にしたようだ。
立ち止まってドラゴンに言う。
「ドラゴンさん、あの緑の光はなに?」
彼は一瞬振り返って、
「……すぐわかる。早く来い」
とだけ言って、原っぱの中心に向かって歩き続けた。相変わらず説明をしてくれない。少し傷ついたが、とりあえず後を追う。裸足の足に草が少しくすぐったい。
すると、緑の光がふわふわと私の周りに集まってきた。辺りが少し明るくなり、気持ちもふわふわする。私の顔に近づいた一体を見て、
「妖精……」
と呟くと、その羽の生えた人型の光が嬉しそうにクスクスと笑った。私もつられて微笑む。
「そんなに興味深いか?」ドラゴンがその様子をみて言った。「そうか、人間を近くで見るのは初めてなんだな」
「私も妖精を見るのは初めてだよ」
と私が言うと、彼は「だろうな」と言う顔をして草の上に座り込んだ。
「ここが、ミシュカの仕事場だ」
「仕事?私は仕事をするためにここに来たの?」
「当たり前だろ、他に何の理由でお前をわざわざ拾ってやらなきゃならないんだ」
また「拾った」という言い方。疑問に思ったが、それを口にできる前にドラゴンが言った。
「お前の仕事は、こいつらの服を作ってやることだ。材料はこっちから提供するがなるべく少なめにしろ」
「服?なんで?」
「そいつらが欲しいって言ったんだ」
妖精の方をむくと、彼らは勢いよく私の周りを飛び回ったり、髪を引っ張ったりした。数が先ほどの数倍に増えている。これは賛同しているのだろうか。
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