第四章 ドラゴン

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 「次の妖精さんは明日にするから、呼ばなくて良いよ」  私の言葉に、完成した服を着て楽しそうに飛び回っていた妖精が止まり、私に向かって首をかしげた。私が真昼に店じまいをするのは初めてだからだ。が、妖精はあまり気にかけず、頷いて窓から飛んでいなくなった。  作業台を部屋の隅に動かし、立ち上がってドアを押しあける。  私らしくない。  昔から私は、黙って閉じこもったまま悩むような人でなかった、ような気がする。もしドラゴンさんが私に隠していることがあるなら、本人に聞いて見れば良いだけのことだ。回りくどく探りを入れるなんて面倒な真似は好きじゃないし、それに、今の私には守るべき誇りも名誉もないから、当たって砕けろくらいの気持ちがきっとちょうど良いのだ。  正直、別に自分の過去をそこまで本気で知りたいわけじゃない。知らない方が幸せでいられそうな気さえする、けど。  私は大人しく静かでいるよりも、好奇心旺盛であった方が良いのだ。そうじゃないと、皆に嫌われてしまう。なぜかそんな気がした。  家から出て、ドラゴンさんがいるであろう場所に向かって歩く。森の中を歩くのも慣れたもので、足元をあまり見なくても昼間であれば普通に歩ける。空をみると、初めて森で目覚めた時と同じような、少し雲のある空だった。  眩しすぎなくて心地が良いので空を眺めて歩く。雲の形が今日ははっきりしている。  あの雲、女の人の横顔みたいな形してるな。まっすぐな髪の長い、強気そうな女の人。多分美人で、密かに彼女に恋焦がれている人が数人いるのだろう。  そんなことを考えて楽しくなっていたら、雲の形がぼやけてわからなくなってきた。風が吹いているのかな?と思って目を凝らすが、視界が隅から涙が出ているように靄に侵されてどんどん不鮮明になっていく。  あれ?  靄は目から着々と侵食を進め、脳に達したようで、平衡感覚がおかしくなった。思わず近くにあった木に片手をのせる。  「疲れてるのかな……」  最近、自分の不思議な体やドラゴンさんのよくわからない反応についてずっと悩んでいるから、きちんと眠れていないのかもしれない。身体的だけではなく、精神的にも疲れてしまっているのだろう。うじうじしてると本当にろくな事が起きない。  しばらく経つと、体の調子が戻ってきた。数回屈伸して体が正常に動く事を確認する。大丈夫そうだ。  そのままちょっと急ぎめでドラゴンさんの家へ向かう。そうしないとまた目眩に襲われそうな気がした。  原っぱに着くと、私の予想通りだったようで、やはり彼は自分の家で呑気にお昼寝をしていた。ドラゴンはよく寝る生物なのだろうか?だとしたら私の監視のためにずっと起こしていてしまっていたことになるので、少し申し訳ないような気がする。  前もこんなことあったな、と思ってドラゴンさんに近づく。確か、あの時は鼻を触ったら起こしてしまったから、鼻は下手に触れない方が良い部分なのだろう。  相変わらず丸まって猫みたいに寝ている。  どうしよう。質問を聞きに来たのに、起こしたくなくなってしまった。寝てる時のドラゴンさんは本当に気が抜ける顔をしていて、何を隠そう、私はその寝顔を見るのが好きなのだ。  起きるまで待つか。  突っ立ったまま待つのも疲れそうなので、ドラゴンさんのお腹あたりに寄っかかって座り込み、そこから寝顔を拝ませてもらう。  気持ち良さそうに寝ているな、人の気も知らないで。  どうやって聞こうかな。今までは話題を持ち上げただけで急に黙り込んでしまうからろくに話すこともできなかったが、今回は私の覚悟が違うのだ。何がなんでも何かしらの情報を引き出してやる。  別にドラゴンさんとかヴィヴィに怒っているわけではない。むしろこんなに優しくしてくれて感謝しているくらいだし、ここの暮らしは、前の送っていた暮らしよりも楽しい気がする。
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