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第四章 王女
王女の第一印象は、「典型的なお姫様」だった。絵本でしか見たことがないような布地の多いドレス、丁寧に結われた少し癖のある髪、凛としてどこか賢そうな、でも少女らしいあどけなさを残した表情。やはり、王族には王族特有の余裕というか、気品がある。
「今日より、王女様のお世話係をさせていただきます、アメルティアと申します」
少し緊張気味に言いながら、アメルティアは王女の冷たい視線を感じていた。しかし顔を合わせると、王女は八歳の少女とは思えない、上品な笑顔でこちらを眺めていた。
「こんにちは、アメルティアさん。今日からよろしくお願い致します」
といって、王女は丁寧にドレスの裾を両手で持ち上げ、小さく膝を曲げた。つい、その立ち振る舞いに見とれてしまう。
王室メイド長が咳払いをし、アメルティアはハッと姿勢を正した。
「王女様、アメルティアは騎士団長様の次女なのです。なので、身辺警護も彼女に一存しますが、よろしいでしょうか?」
メイド長が王女に言った。王女の笑顔が一瞬消えたように見えたが、彼女はアメルティアを向いてすぐに微笑んだ。
「あなた、強いの?」
「簡単な剣術や護身術程度なら幼少期から父に仕込まれております」
「素敵ね」
ふふふ、と王女は楽しそうに笑う。アメルティアはどう反応すれば良いのかわからず、苦笑し、その様子をメイド長が見て面白そうに微笑む。
「いえ、素敵だなんて……周りにはよく怖がられたりします」
「あら、素敵よ。憧れてしまうわ」
何だろう。
何だろう、この……距離感?というか、偽物感。
王女の振る舞い方は完璧だ。一つ一つの言葉、仕草、表情までもが予め台本でも用意してあるように迷いがなく、「王女らしい」。まるでおとぎ話から出てきたようだ。本当に八歳なのだろうか。
「では、私はこれで失礼致します。アメルティア、くれぐれも粗相のないように」
「ええ、ありがとうね」
「かしこまりました、メイド長様」
メイド長が部屋から出て行った。王女は、自室の中を歩いて椅子の二つ置いてある机を指差し、アメルティアに座るよう示した。
アメルティアは少し迷い、しかし王女の指示ならば、と思い椅子を一つ引き出した。
「どうぞ、王女様」
「ありがとう」
頷き、王女が座ったことを確認してから向かいの椅子に座る。王女が口を開いた。
「ねえ、アメルティアさん」
「アメルティアで結構です」
「じゃあ、アメルティア」
「はい、なんでしょう」
ただでさえ緊張を表情に出さないよう必死なのに、王女がまっすぐと目線を合わせてくるのでアメルティアは目のやり場に困った。つい机をチラチラと見てしまう。
「…………」
急に黙った王女を不思議に思い、顔をあげると王女は笑顔のまま、何もおきなかったように言った。
「どうせこれから一緒にいるのだから、あなたのこと、聞かせてくれないかしら?」
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