第四章 王女

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 質問に少し戸惑う。  「私のこと、ですか?……面白くないですよ」  「別に面白さを求めているわけではないわ。普通にあなたのことを知りたいの。年齢とか、好きな本の種類とか」  「では……年齢は、十五です」  王女が嬉しそうに相槌をうつ。少し照れくさい気持ちになりながらアメルティアは続けた。  「好きな本の種類は、そうですね。冒険小説や、推理小説でしょうか。恋愛物にはあまり興味が持てません」  「アメルティアは男の人なんて居なくても強いものね」  王女の表情を伺う。他意はなさそうな感じだが、果たして言っても良いのだろうか。  「王女様もお強いと思いますが」  王女はアメルティアの言葉に笑顔のまま首を傾げた。  「強いだなんて、初めて言われたわ」  「お強いですよ」  「どうして?」   「王女様は、お勉強も、お作法の授業も、何もかも大変努力していらっしゃると伺っております。私は勉学や、何と言いますか、手作業がさっぱりですので」  この人、すごく話している人の目を見るな、と思いつつアメルティアは言った。ここまで見つめられるとつい見つめ返してしまう。  「そうかしら。私、努力しているのかしら」  王女が言った。  「まあ、王女様ですから、努力していただかないと困るので……」  「それもそうね。私にははっきりとした使命があるもの」  と言うと、王女は少し俯いた。ずっと目がバッチリ合っている状態だったので、アメルティアは逆に違和感を感じた。  「……あの」  王女が言った。先ほどの凛としたものとは打って変わって、小さめな声だった。  「はい、なんでしょう」  「ア、アメル、って呼んでも良いかしら」  アメルティアは目を数回開けては閉じた。完璧な王女像が少し壊れた。  なんだ、ただの八歳の少女じゃないか。  「もちろんです、ドロテア様」    ドロテアは意外と馴染みやすい性格をしていて、聞いていた評判とは違う少女だった。  まず、アメルの想像と第一印象の数倍、いや数十倍、お転婆娘だった。  ドロテアの専属侍女となって数週間たったある日、アメルが彼女の部屋に行くと、ドロテアがいつもと比べて随分地味な服を着ていた。  「お出かけになるのですか?」  アメルが聞くと、ドロテアは大きく頷いた。  「アメルも用意して!」  「私はこの格好でも大丈夫だと思いますが……どちらへ行くのですか?」  「城下町の近くの川よ」  「……川」  「ええ、とても奇妙な噂を耳にしたの。その川に幽霊が出るらしいのよ」  「……幽霊」  「行きたくならない?」  その日は勉強とお稽古がもう終わっていたし、特に用事があるわけでもなかった。それに、アメルも正直興味をそそられた。  川なら、護衛が私だけでも大丈夫かな?  「行きましょうか」  この時、アメルはあまり考えずにドロテアの提案を了承したが、これが将来、自分を困らせる恒例行事になるとは思いもしなかった。
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