第四章 王女

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 「まあまあ、とにかく入ってくださいよ!」  急に、二人の背中をバハルが押した。足がもつれる。   「え」  アメルが反応する前に、二人は建物の中に入っていた。  しまった。  と思った時にはもう遅い。  後ろで重い扉が閉まり、鍵のかかる音がした。内側から鍵のかかる館。ということは、人を中に閉じ込めるための館。  二人の押し込められたのは、吹き抜けになっている大きなホールだった。目の前には二階に続く広い階段、頭上には豪勢なシャンデリア。しかし、全て埃を被っていて、まるで幽霊屋敷のようだった。  「ミシュカさん、上モノ連れてきましたよ!」  バハルが言うと、目の前の床が一部持ち上がり、少女が顔を出した。アメルはドロテアの腕を掴んでドロテアの前に立つ。ゆっくり右腕をあげ、左腕の袖の中に手を入れる。  「え?私、誰も誘ってないけど……」  と言いながら、少女はよいせ、と外れた床を横にどかして、自分は這い上がった。そして、ドロテアとアメルを見た彼女は動きを一瞬止めたかと思うと、すごい勢いで立ち上がった。  「このバカ!なんて人達を連れて来たのよ!」  そう言った少女は、長い焦げ茶色の髪を振り乱し、バハルを睨んだ。  「え、いや、だってお店に来てミシュカさんのこと探してたから、てっきり……」  「違うわよ!この人、誰か知らないの?」  「知りませんけど」  「王女のドロテア様よ。どうすんのよ、ここの場所割れちゃうわよ!」  「…………」  バハルはくるっと頭だけ回転させ、ドロテアとアメルを見つめた。  「…………え?」  その驚いた隙を狙い、アメルは一瞬でバハルとの距離を縮め、袖の中に仕込んでいた短剣を彼の首に突き立てる。  金属がぶつかる音がした。  アメルの短剣とバハルの首の間に、バハルの剣があった。  危険を感じ、アメルはドロテアの前まで一旦戻った。ドレスの裾が空気抵抗ではためく。ミシュカであろう少女が小さな悲鳴をあげた。  ドロテアがバハルの取り出した剣と、ミシュカの出てきた穴を見つめた。すると、その穴から一人、また一人と図体の大きい男達が現れた。  「アメル。ここってやっぱり」  鍵のかかる入り口、役人に見つかりにくそうな立地、床の隠し扉、戦闘能力を持った従業員達。そして、何よりも先ほどのバハルの「上モノ」という言葉と、消えたミシュカの知り合いの少女達。  「そうですね」もう一つの短剣を取り出し両手に一つづつ握り、アメルは言った。「奴隷商の仲買人のアジト、ってところでしょうか」 
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