第五章 ドラゴン

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 まあ、そもそも森の近くでポツンと一軒だけ建っている家を信用したのが良くなかった。一人で反省する。反省したところで次回に活かすための次回があるか怪しいが。  しかし、随分と手際よく捕まってしまったものだ。  どうしよう。  私の今の状態で一人で抜け出すのは恐らく不可能だ。ドラゴンさん達には内緒で抜け出してしまっている以上、彼らからの救出にはあまり期待できない。まず、ここに私がいると気づく方法がない。でも、私はまだ、ドラゴンさん達との暮らしを終わらせたくないのだ。せっかく楽しい生活を手に入れたのに、それを諦められる訳が無いだろう。  どうにかできないかとあたりを見渡すと、私は長い廊下の真ん中に落とされたようで、左右にたくさんの扉が続いていた。地下なので薄暗いからか、あまり様子がわからない。  「私を売るのですか?」  とりあえず聞いてみる。  頑丈そうな方の男が私を見て頷いた。  「ああ、察しが良いじゃねぇか。悪いが俺らも商売なんでね、逃げられても困るし……」  急に男が話すのをやめた。  「どうしました?」  手下の方が聞く。男はしゃがんで私の顎を片手で掴み、ぐいっと自分の顔に近づけた。抵抗しても敵わなさそうなのでされるがまま顔をあげる。男の息が臭い。  「おい、こいつ、目ん玉が白いぞ」  「え、本当っすか?」  男の言葉に手下が慌ててしゃがんで私の顔をまじまじと見つめる。こんなに人にジロジロ見られるのはやはり不快だ。どうにか顔の位置を変えようとするが、さっきの落下の衝撃のせいか体に力が入らない。  というか、目が白い……?嘘だ、私の目の色は、確か濃い茶色だったはず。確かに森に来てからは鏡などを見る機会がなかったが、瞳の色なんて早々変わるものではないだろう。  「目が白いってことは、この娘、森のドラゴンと仲間ってことっすか」  「その可能性が高いな」  「こういう場合って売り値は高くなるんすか?低くなるんすか?」  「わからん。お頭に聞くしかない。ただ、顔は良いから売れるだろ」  目が白いことが、ドラゴンさんと関係ある?  なんか、聞いたことがある気がする。瞳の色というのは生き物の本質と深く関わっていて、瞳の色が異質なものは存在が異質である。これは、常識なので覚えている。でも、白い目がどういう意味を持つのかは思い出せない。  「なぜ白い目がドラゴンと関係あるのでしょうか?」  私の質問に男二人は驚いているようだった。私の顎が男の手から解放されたので、二人の目線と合うように座る。  手下の方が言った。  「お前、知らないのか。自分のことなのに」  「……ええ、まあ」  記憶がないもので。  男達は顔を見合わせた。頑丈そうな方の男が先に口を開いた。  「目が白いってことは、一回死んで、ドラゴンの魔法で生き返った人間、ってことだ」  さらっとすごいことを言われた。  「え?」  私が、一回死んでいる?  いや、そんなはずはない。  しかし、男達は二人とも当たり前のことを言ったかのような顔をしている。私も、言われてみれば、白い目とはそういう意味だと学んだような記憶がある……ような気がする。はっきりとは思い出せない。
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