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私はまたドラゴンの方を向いて頷いた。
「もちろん、それくらいなら喜んで作るよ」
このドラゴンが私を拾った理由はこれだけなのか、と私は何か可笑しくて少し笑ってしまった。
「ドラゴンさんの分も、作ろうか?」
「……俺の分はいらん。自分で作れる」
私が不思議そうな顔をしていると、ドラゴンは心底面倒くさそうにため息をついた。
「お前、俺の使える魔法を知らないのか?」
首を左右に振る。
「ドラゴンは人間に化けられるのさ。その時に、ついでに服も作れちまうんだよ」
急に後ろから聞いたことのない声がした。
驚いて振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
「なんでいるんだよ」
とドラゴンが不機嫌そうに呟く。
「いやぁ、お前が本当に人間の女を連れてきた、って聞いて、面白そうだから見に来たのさ」
少女は言った。
見た目は普通の人間の子供に見えるその少女は、お世辞にも清潔ではなかった。腰まで伸びた黒い乱れ髪は、顔の上半分をほぼ覆い隠し、彼女の着ている大きな真っ黒のワンピースもどこか古そうで、ところどころに不思議な色の汚れがついていた。そして少女は話している間もずっと尖った犬歯を覗かせ、楽しそうに笑っていた。
彼女が私に近づく。
「ほーぅ、淡い茶色の髪か……高く売ろうと思えば売れるじゃないか」少女は腕を組んだ。「あんた、名は何というんだい?」
「……ミシュカ」
「名前も珍しいね。東の方から来たのかい?あ、私はヴィヴィってんだ、よろしく」
少女が片手を私に差し出す。
汚いかな、と少し思ったが森の中を汗まみれになりそうなほど歩いてきた私もさして綺麗な状態ではなかったので、その手を握り返した。予想に反して、私は汗をかいていなかった。
「よろしく。ヴィヴィさんは人間じゃないの?」
私の質問にヴィヴィがニヤリという擬音がピッタリな笑い方をした。
「一応、寿命的にもうほぼ人間じゃないね。何だと思うかい?」
「……魔女」
ヴィヴィが指をパチンと鳴らして私を指差す。
「正解」
意外と簡単に正体がわかってしまったことに少し罪悪感を感じたが本人はあまり気にしていないようだ。自分がかなり安直に魔女っぽい格好をしている自覚があるのかもしれない。
「で、何だっけ?妖精ちゃん達に服を作ってあげようってことだったかい?」
「ああ、そうだ」ドラゴンがやっと発言できた、とでも言わんばかりのムスッとした声で言った。「お前が来るまでは順調に話が進んでたんだ」
「そりゃあ悪かったね」
ヴィヴィがガッハッハと笑った。仲いいなあ、と少し羨ましく思う。
「ねぇ、ドラゴンさん、ヴィヴィさん」
私が言うと、二人がこっちを見た。
「なんで私が必要なの?妖精さんの服、あなた達じゃ作れないの?」
二人がお互いの顔を見た。
「まあ、私が作ってあげようとしたこともあったんだけどね。妖精ちゃん達にあまり気に入ってもらえなかったのさ」
「お前のセンスはどうかしてるからな」
「そもそも論外だった人に言われたかないねぇ」
「はぁ?服に爬虫類の死体をつけなかった分俺の方がマシだろ」
「あんたのは服でもなかっただろうが!」
「あ、はい、わかった!私が作る!作ります!」
険悪な雰囲気で醜い背比べが始まったので慌てて止める。色々と納得した。
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