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第五章 王女
「ど、どうしようバハル、アメルティア様だよあれ!」
ミシュカが登場した三人の男達の後ろに素早く隠れて言った。
「いや、誰ですか」
バハルは剣を握り直し、身構えた。アメルが誰かは知らなくとも、彼女の動きからその実力を察知したようだ。
「ドロテア王女の専属侍女で、護衛もやってるっていうよくわかんない人よ。確か、父親が騎士団長で、幼い頃から戦闘訓練を受けてるから、強い!って王城の人達が言ってーー」
「うお!」
バハルの声と、また金属音が部屋に鳴り響く。突撃したアメルの右手の短剣とバハルの剣がぶつかった音だ。
余った左手の剣を振りかぶり、バハルの腹を狙って突き刺そうとするが、それができる前に蹴り飛ばされる。数歩後ろによろめいたアメルを、間髪入れずにバハルの剣が襲う。
シュッ。と剣が空を切る。避けたアメルを見てバハルがチッと舌を打った。気にせず、アメルがまた攻撃を仕掛ける。
「ミシュカさん、この人殺しても良いんですか?」
バハルが必死に攻撃を避けながら言った。
「別に良いわよ。お姫様は売れるからダメだけど、アメルティア様は厄介だし、年齢的にも売れないから」
ミシュカからの言葉に頷き、バハルは応戦を再開する。剣を受け止めながら、アメルは自分の年齢に対する指摘に少しショックを受ける。が、そんなことを気にしている場合ではない。
「王城の少女たちは、みんな売ったの?」
ガキン、カキン、と剣が交わる音が飛ぶ中、ドロテアが部屋の向かい側にいるミシュカに聞いた。ミシュカは三人の男の後ろから頷いた。
「そ、そうよ。王城に仕えてただけあって洗練された子が多いから、結構良い値で売れるの」
「あの飲食店の女将さんもグルなんでしょう」
「え、なんでわかったの?」
ミシュカが慌てた様子で顔を出したが、剣の擦れる音に怯えてまた頭を引っ込める。
「何となく、それっぽかったわ」
「そんな適当な……っていうか、あなた、そこまでわかってバハルについてきてここまで来たの?」
「ええ。バハルさんがあんなにお強いのは誤算だったわ」
「とんだ王女様ね」
ミシュカがアメルとバハルの戦いが少し自分から遠ざかったことを確認し、男たちの背中を叩いた。
「王女様だけでも地下に連れてって」
三人の男達は黙ったまま頷くと、アメルとバハルを避け、ドロテアに近づいた。
「ドロテア様!」
アメルがドロテアの元へ駆け寄る。
バハルがすかさず二人に斬りかかる。予測していたアメルは短剣を片方、バハルに向かって放り投げた。
「ひっ」
バハルがそれを飛び跳ねて避け、剣が木製の床に刺さる。その隙にアメルは、ドロテアと男達の間に入り、もう一方の短剣も投げた。
肉の裂ける音がして、男の一人が倒れた。その胸には、深く剣が刺さっている。
「わぁっ」
残りの二人が見た目と似合わず、情けない声をあげて後ろに数歩下がった。ミシュカも戸惑っているようで、部屋の端の方へジリジリと後退している。
「アメル残酷……」
ドロテアがボソッと言った。
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