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ドロテアの一言を軽く聞き流し、アメルは、バハル以外は戦闘経験が意外とないと判断し、ドレスの裾の中からさらに剣を二本取り出した。バハルを向いて身構える。
「え、なんでそんなに短剣持ち歩いてるんですか……」
バハルが呆れた声で言う。
アメルが彼を睨む。
「あなたこそ、なぜ王国騎士のような剣の振り方をしているんですか?没落貴族か何かですか?」
「そこは、まあ、想像にお任せしますよ」
そう言うと、バハルは地面を強く蹴り、剣を大きく振った。
「そんな見え見えの剣筋で、私を斬れるとでも?」
アメルが、両手の短剣を交差させ、受け止める。バハルは、力を思いっきりかけ、残りの二人の男に言った。
「おい、今だ!」
ハッと左を向くと、二人の男達が自分たちの剣を持って走り出した。アメルは慌てて剣を一本、男達の方へ向けようとするが、バハルの力が強く手が動かせない。
まずい、このままだと斬られる。
必死で打開策を探すが、アメルはもう男達の間合いに入っていた。
一人が、剣を振り上げる。酷く素人らしい動作だ。
こんな状況でなければ、余裕でかわせるのに……!
剣が、振り下ろされる。
「つっ……!」
体を反らし、どうにか剣の直撃を避けたアメルの左の二の腕から、血が溢れ出す。左腕の力が抜け、短剣が一本、カラン、と音を立てて地面に落ちた。バハルが剣にさらに力をかける。それをかろうじて一本の剣で受け流す。
ザシュッ。
受け流されたはずの剣筋がアメルの太ももの表面を切断した。バハルがふっと笑う。
こいつ、ドレスのせいでわかりにくいはずなのに、私の足を狙って斬った。
アメルは力の入りにくい左腕でドロテアを後ろに押し、自分も後ろに下がってバハルと距離をとった。
「ドロテア様、大丈夫ですか?」
「ええ」
片手の剣でバハルを警戒しながら、チラッとドロテアの表情を伺う。恐ろしいほどの真顔だ。やはり、このお方は私の心配をしてくれないらしい、とアメルはまたため息をつきたくなった。
また、バハルが近づいてくる。アメルの左手が使いものにならないと悟ったのか、先ほどよりも強気なようだ。
しかし、左腕と右太ももが上手く動かないこの状態で、どうすれば良いものか。短剣もさすがにもう仕込んでいない。
「アメル、左」
ドロテアの言葉に、左を向くと、先ほどの男がまた剣を振り下ろしていた。
危なっ、と思いつつ右の短剣で受け止める。しかし、いくら剣筋が読めてもアメルの片手と大男の両手では力勝負において明らかに分が悪い。なかなか弾き返すことも、受け流すこともままならない。
アメルが動けない状態のまま、バハルが
「よいしょー」
と気の抜ける声で、がら空きのアメルの右側に剣を振った。
血しぶきが飛び、少女が一人、小さな悲鳴をあげる。
淡い茶色の髪がアメルの視界をよぎり、地面に落ちる。
少し間があり、アメルが叫んだ。
「ドロテア様!」
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