第六章 王女

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第六章 王女

 「ドロテア様!」  アメルはかがみ、必死で倒れたドロテアを抱き上げた。  ドロテアは胸から腰にかけて大きな切り傷を負っていた。地面とアメルの手が真っ赤に染まる。  「ドロテア様、ドロテア様!ドロテア様!」  アメルに軽く弾き飛ばされた男は、どうしたら良いのかわからないらしく、とりあえず一旦ミシュカの元へ戻った。バハルとミシュカは焦った様子で顔を合わせるが、彼らもどうすれば良いのかわからないようでそのまま何もせずにアメルとドロテアを眺める。   「アメル」ドロテアは目をゆっくり開けてアメルの目を見た。「……王位継承権は弟に譲るって伝えといて」  「今はそんなこと言ってる場合じゃ……って、諦めないでください!しっかりして!まだ助かります!今止血しますから」  と言うが、アメルは医療に疎く、止血方法がわからない。とりあえず包帯とかで巻けば良いのかな、でも、圧迫したらもっと血が出そうだし。  焦って思考がうまくまとまらない。  アメルが泣きそうになっていると、ドロテアがか細い声で言った。  「楽しかった?」  「え?」  「私と一緒にいて。冒険とか」  「……!もちろんです」  「そう、良かったわ。ごめんなさい」  ドロテアは小さく咳き込んだ。  ドロテア様が私に謝っている。そろそろ本当に危ない、とアメルは思った。ドロテアの血がアメルのドレスの裾を染めるほど広がっていた。  アメルを眺めてドロテアが苦笑した。  「大丈夫よ……私、来世は楽しく生きるつもりだから」  「来世?」  「そう……普通の女の子としてのんびり暮らすの……もしかしたら、恋もできるかも……」  ドロテアの声はほぼ実体を無くしていた。アメルの頬に当てていた手がコン、っという音を立てて床に落ちた。  「普通の女の子、ですか」  震える声でアメルが言った。  「気づけなくて、申し訳ありませんでした……」  ドロテアは元々あまり開いていなかった目を完全に閉じた。  アメルは主人の体を抱きしめた。  「ドロテア様……」  その光景を黙って眺めていたバハルがミシュカの肩をちょんちょんと突つく。  「ミシュカさん、あれ、助けなくても良いんでしょうか?」  急に話しかけられたミシュカは少し慌てて答える。  「は?そ、そんなことするわけないでしょ。お姫様が死んだところで、商品はなくなるけど、別に困らないし。こっちだって一人殺されてるし」  「え、いや、どこに死体捨てるんですか……見つかったらヤバいですよ」  ミシュカが背伸びしてバハルの頭を引っ叩く。彼から「ふぐっ」という声が出る。  「そんなの、森の端にでも放っときゃ良いでしょ?最近、ドラゴンが出るとかで誰も近づかないし。それに」ミシュカがドロテアを指差す。「王女様、もうほぼ死んでるわよ。あなた戦闘経験が結構あるんだから、そのくらいもう気づいてるでしょ?」  「まあ、そうなんですけど、なんか黙って見てるのも、ちょっと、こう……」  「大丈夫よ、アメルティア様はあのまま大人しくなるような人じゃないから。むしろ、私達は自分の心配をした方が良いかも」
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