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手下が驚いて、力が弱くなる。その隙に、腕を振ってどうにか振り払い、また地面に倒れこむ。一人で立つこともできなくなっているようだ。
男の顔面を蹴り飛ばした靴は、そのままはしごを使わずに地面に着地した。
靴の持ち主は、もちろん、
「ミシュカ!」
ドラゴンさんだった。
「へ?だれ?」
自分の名前を呼ばれたミシュカは困惑している。まあそうだろう。
手下が私とドラゴンさんの間に立ち、腰の鞘から短剣を取り出した。
「なんだお前、ミシュカさんの知り合いか?」
「そうだ」
「いや、私こんなやつ知らないから!」
……紛らわしい。
「えっと、とりあえず、この人達は敵だから」
身体中が馬鹿みたいに痛むのに声は普通にでる。私の言葉を聞き、ドラゴンさんは私の状況を少し理解したようで、頷いた。
ドラゴンさんってどうやって戦うんだろう。確か、ドラゴンは国家に値する力を持つとか言われているが、今彼は人間の姿をしているし、どれくらい強いのだろうか。
ドラゴンさんが、腕をスッと持ち上げて手下の男の人を指差した。
「な、なんだよ」
手下が少したじろぐ。相変わらすここの従業員は腰抜けが多い。
ドラゴンさんの指の先から、光の球が飛び出し、手下に直撃した。手下は、後ろに吹っ飛ばされ、私の横に倒れた。
顔が焦げて目も当てられない様になっている。即死だろう。なるほど、私の心配する必要はなかったようだ。
「ひ、火?」ミシュカが言った。「あ、あんた、まさか」
「俺は森のドラゴンだ。お前ら、ミシュカに何をしようとしていた」
「え?ミシュカ?いや、私は別に何も……」
「この人達、私をお金のために売ろうとしてたんだよ」
ドラゴンさんにわかりやすく説明すると、彼は目に見えて不機嫌になった。新鮮だ。
本物のミシュカは相手の正体をようやく理解できたらしく、本格的に慌てだしたようで、
「バハル!侵入者!」
と叫んだ。なるほど、バハルは彼女の最終手段であり、最大戦力なのだろう、と思う。確かに、アメルとほぼ対等に渡り合えていた時点であの男は只者ではない。
ミシュカの斜め後ろにあった扉がゆっくり開いた。バハルが恐る恐る顔をだす。
「いや、実は聞こえてたんですけど、あれ、ドラゴンなんでしょ……?無理無理無理勝てるわけないじゃないですか降参しましょうよ」
「今さらそんなことできないわよ!あんた、結構強いんだから勝てるって。せめて、私の逃げる時間だけでも稼げるって!」
「無茶ですってば……嫌ですよ、俺、あんなのと戦うの。火傷とか一番痛そうだし」
二人がわちゃわちゃ騒いでる間に、ドラゴンさんは私の腕を縛っていた縄を解き、片手で支えながら、完全に足に力が入らなくなった私を立たせようとした。ドラゴンさんにもたれかかりながら、なんとか立ち上がる。
「大丈夫か?」
「あの人……あのバハルって人」質問に答えず、私はバハルを指して言う。「私のこと、殺した人」
ドラゴンさんの腕が、ピクッと動く。
「……思い出したのか」
「うん」
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