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ドラゴンさんは無言のまま、さっきと同じようにバハルを指差した。また、火の球が飛び出し、「あ」としか言えなかったバハルの顔に当たった。ミシュカが悲鳴をあげた。
「帰ろう」
ドラゴンさんが言った。
「うん。ーーあ、ちょっと待って」
尻餅をついて何か叫んでいるミシュカに声をかける。
「ミシュカ・ロジュノスト。お願いがあるわ」
「な、なんですか……」
ひどい怯えようだ。しかし、この様子と、この人の性格を考えれば、これで大丈夫だろう。
「どうせ、ここにまだ売る予定の娘達がいるのでしょう?全員解放して、あなたは自首してくれないかしら。別にやらなくても良いのだけれど」ドラゴンさんを指差す。「見てるから」
ミシュカがすごい勢いで頷く。
「もちろんです、やりますやります」
その様子を確認し、ずっともたれかかったままのドラゴンさんの肩をぽん、と叩いた。
「帰ろっか」
「ねぇ、ドラゴンさん」
私を抱えながら歩くドラゴンさんに聞く。
「何だ」
「私の死体の周りに、もう一人女の人いたりしなかった?」
「いや、お前だけだった」
「そっか」
「……お前、本当の名前は何なんだ」
驚いてドラゴンさんの顔をみる。しかし真顔だ。気のせいか、私を助けてくれてからずっと表情を見せていない。
でも、ドラゴンさんが初めて私についての質問をしてきた。
「さすがにミシュカじゃない、って気づいてたんだ」苦笑いをする。「ドロテア。この王国の王女様だったよ」
「だから、さっきあんな変な口調だったのか」
「変って……」
まあ、確かに少し不自然だったかもしれない。「完璧姫口調」を使ったのは数ヶ月ぶりなのだから仕方がないだろう。
「ねぇ、ドラゴンさん」
「何だ」
「腕も動かなくなっちゃった」
ドラゴンさんは何も言わずに、私を持ち直して、歩く速度をあげた。
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