第七章 ドラゴンと王女

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 ドラゴンさんは無言のまま、さっきと同じようにバハルを指差した。また、火の球が飛び出し、「あ」としか言えなかったバハルの顔に当たった。ミシュカが悲鳴をあげた。  「帰ろう」  ドラゴンさんが言った。  「うん。ーーあ、ちょっと待って」  尻餅をついて何か叫んでいるミシュカに声をかける。  「ミシュカ・ロジュノスト。お願いがあるわ」  「な、なんですか……」  ひどい怯えようだ。しかし、この様子と、この人の性格を考えれば、これで大丈夫だろう。  「どうせ、ここにまだ売る予定の娘達がいるのでしょう?全員解放して、あなたは自首してくれないかしら。別にやらなくても良いのだけれど」ドラゴンさんを指差す。「見てるから」  ミシュカがすごい勢いで頷く。  「もちろんです、やりますやります」  その様子を確認し、ずっともたれかかったままのドラゴンさんの肩をぽん、と叩いた。  「帰ろっか」  「ねぇ、ドラゴンさん」  私を抱えながら歩くドラゴンさんに聞く。  「何だ」  「私の死体の周りに、もう一人女の人いたりしなかった?」  「いや、お前だけだった」  「そっか」   「……お前、本当の名前は何なんだ」  驚いてドラゴンさんの顔をみる。しかし真顔だ。気のせいか、私を助けてくれてからずっと表情を見せていない。  でも、ドラゴンさんが初めて私についての質問をしてきた。  「さすがにミシュカじゃない、って気づいてたんだ」苦笑いをする。「ドロテア。この王国の王女様だったよ」  「だから、さっきあんな変な口調だったのか」  「変って……」  まあ、確かに少し不自然だったかもしれない。「完璧姫口調」を使ったのは数ヶ月ぶりなのだから仕方がないだろう。  「ねぇ、ドラゴンさん」  「何だ」  「腕も動かなくなっちゃった」  ドラゴンさんは何も言わずに、私を持ち直して、歩く速度をあげた。
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