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家のベッドに寝かせられても、私の体は動かなかった。
妖精達が数人(数匹?)、私の様子を見に来てくれたが、ドラゴンさんに追い払われてしまった。
さっきまでずっと無表情を決め込んでいたくせに、ドラゴンさんはベッドの横にしゃがみこんで、今にも泣きそうな顔をしている。
「本当は、もっともつはずだったんだ。ここでじっとしてれば……俺が、方法を見つけて」
「方法なんて多分なかったよ」
「……なんでそんなこと」
「何となく。死んだ人は生き返らない、って良く言うじゃない?」
手足だけでなく、首あたりまでが上手く動かせなくなっているため、ドラゴンさんの顔が見たくとも、もう真上しか見ることができない。つまり、いつ言葉も発せられなくなるかわからない、ということだ。
「ドラゴンさん、ありがとね」
「何が」
「私、ずっとこういうのんびりした生活に憧れてたから……自分で壊しちゃったけど。だから、最後に幸せにしてくれてありがとうってこと」
本当に、ドラゴンさんは私の願いを全て叶えてくれた。まあ、「普通の女の子」として暮らせたかどうかは少し物議を醸すかもしれないが。
ドラゴンさんは何も言ってくれない。
でも、せっかくだから声を聞かせてほしいものだ。
「そういえば、なんで私があそこにいたってわかったの?」
「…………」ドラゴンさんは急に小声で言った。「……匂い」
「え?」
「だから、お前の匂いを……辿っていった」
「えー、なんか嫌だ、気持ち悪い」
私の笑い声にドラゴンさんは少し安心したようだ。
「ドラゴンは鼻が効くんだ。だが、地下にいることまではさすがにわからなかった」
「…………」
「……おい」
「…………」
あーあ、ついに声が出なくなっちゃった。と思ってもドラゴンさんに私の考えていることがわかるわけもない。
視界もぼやけて、いつかと同じような靄に侵食されていく。
「おい、待て、どうしたんだ」ドラゴンさんの強張った声が遠くに聞こえる。「しっかりしろ」
胸に激しい痛みが走る。数ヶ月前と同じように、胸から腹にかけて開いた傷口から血が溢れ出した。
魔法は解けてしまったようだ。
私の最後の一言は「気持ち悪い」でもう決定なのだろうか。どうせならもっと格好良い台詞を吐いて終わりにしたかったけど、終わったことを嘆いても仕方がない。終わりはいつでも突然来てしまうもの。それは、十分受け入れているつもりだ。
もうドラゴンさんとヴィヴィと会えないのは寂しい。妖精の服を全員分作れなかったのも心残りだ。でも、このまま消えていくのも悪くないだろう。
こんなに生に執着のない人間が二度も、こんなに惜しまれて死ねるのだ。
これ以上に幸せなことなんて、きっとない。
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