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「じゃあ任せた。俺は寝てくる。細かいことはヴィヴィに聞け」
ドラゴンがそう言って立ち上がった。
「あ、ちょって待って!」
「なんだ」
さっきは全然待ってくれなかったので、ドラゴンが立ち止まったことに若干感動する。先ほどのヴィヴィとの会話からしても、彼はきっと完全に冷酷無情な訳ではないのだろう。
「私、なんかここに来る前の記憶がないんだけど……なんで?」
ドラゴンとヴィヴィが顔を見合わせた。彼が首を傾げて彼女が少し気まずそうに笑う。風が吹き、葉のそよぐ音以外の静寂が数秒間続く。妖精達はいつの間にか私の周りから離れ、また原っぱのあちらこちらに散らばって遊んでいた。
先に静寂を破ったのはドラゴンだった。
「そういうものなのか?」
ヴィヴィは髪を指でほぐしながら
「まあ、そういうことも十分起こり得るさ。むしろ好都合じゃないか」
と言った。
私は首を右に傾ける。
「えーと、つまり」ヴィヴィがまた口を開いた。「君の記憶がないのは、君がここにいる代償、みたいな感じ?なのさ」
良くわからないことを自信なさげに言われると何とも説得力がない。
「別にもうどうでもいいことだ。気にするな。お前はさっさと仕事をしろ」
とドラゴンは言った。
ヴィヴィも頷く。
「うんうん、そこはあまり深く考えなくても良いことだよ」
「うん、まぁ、どうでもいいけど……」
全然よくわからないことだらけだが。とりあえずこのドラゴンには従っておこう、と思った。
どうせ抗おうとしても私では敵わないだろうし、何よりも、呑気かもしれないが、私はここでの暮らしはなんか楽しそうだと思ってしまっていたのだ。妖精達を眺めながら、そう決めた。
気楽すぎる考え方だろうか?でも、それも良いと思える。
さて、妖精の服は、どうやって作るのだろう。
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