314人が本棚に入れています
本棚に追加
「ええ、開いております。何か気になられたものはございましたか?」
蒼井くんの言葉に、お客さんは一度立ち止まってあたりを見回してからうなずいた。
「あの、何か青いものでオススメってありますか? できれば身に着けられるもので」
「何か青いもの……ひょっとして『サムシングブルー』を、お探しですか?」
蒼井くんが言葉を発した瞬間、一瞬の沈黙がその場に漂った。一拍おいた後、お客さんは勢いよく頷く。
「……ええ、ええ。その通りです。よく分かりましたね。ちょっと今週末までに欲しくて」
「完全にただの僕の予想だったので、外してたらどうしようってすごくヒヤヒヤしました」
「あら。大正解です」
お客さんが右手を口元に当てて上品に笑う。その薬指に、グレイッシュな宝石の指輪が光っていることに私は気づいた。その宝石が、やや黒くすすけていることにも。
「それでしたら、こちらへ」
お客さんをアクセサリーコーナーへ案内する蒼井くんについていきながら、私は足元にすり寄ってくるティレニアを抱き上げる。
「更紗、お前『サムシングブルーってなんだろう』って顔してんな」
抱き上げた瞬間、ティレニアがひそひそ声で話しかけてくる。うぐ、と言葉に詰まった私はためらいながら素直に頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!