オープニング。放課後は硝子館で

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 ガラス細工が整然と並べられている店内の一番奥のレジ。そこにしれっと、さっきまで私と高校の教室で一緒に授業を受けていた男子生徒が、静かに本を読みながら鎮座していたのだから。   「なんでって言われても、この店は僕の家の家業だし。僕のほうこそ、聞きたいかな」  本を閉じながら少年が首を傾げ、目を丸くしている。少しだけ色素が薄く、日に透けると茶髪に変化して見える彼の髪が、静かに揺れた。 無造作に左右に分けられた前髪からは形の良い眉がのぞき、髪の毛と同じく日の光の下だとミルクチョコレート色に見えるぱっちりとした瞳がその下に配置されている。筋の通った鼻梁の下には薄い唇。  彼の名前は、蒼井悠斗(ゆうと)。その物腰柔らかさと整った容姿から、学年中の女子につけられたあだ名が『王子』だ。そんな彼と、まさかここで出会うとは。  私と彼は、目線を絡ませながら固まった。蒼井くんはひたすらいぶかしげな眼でこちらをうかがっている。  まさかこんなことになるなんて、三十分前までの私は予想もしていなかった。
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