オープニング。放課後は硝子館で

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 それにここで買えるスイーツは女子にも人気で、仕事で疲れて帰ってくるお母さんのためによく立ち寄って買っていた。  人は常に行きかっているけれどそこに嫌な気配はなく、みんな観光や食べ歩きを自分の大切な人たちと純粋に楽しんでいる、そんな感じがしていた。  今日も食べ歩きを楽しんでいる人たちを眺めつつ、私は先を急ぐ。  この先を抜けると鶴岡八幡宮の鳥居だ。周りを圧倒するスケールの鳥居の前を通り過ぎ、私はさらにその奥の通りへと歩いていく。  さっきまでとは打って変わって静かな通りを、鎌倉を横断する滑川の方角へ歩いて5分ほど。  見覚えのある、小さな洋館が見えてくる。薄茶色のレンガ壁に、緩やかに斜めの線を描くレンガ色の屋根。ステンドガラスを嵌めこんだアンティーク調のどっしりとしたドアの目の前に、私は立ち尽くした。 『硝子館 ヴェトロ・フェリーチェ』。レンガの外壁に埋め込まれた銀色のプレートに、洒落た黒色の斜体文字で、そう店名が刻まれている。 「今日はついに、入ってみようかな」
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