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「……あれ?」
店の奥で声がして、私は顔を上げる。
見たことのある男の子が、びっくりした顔でカウンターの中からまっすぐにこちらを見つめていた。
「あ、蒼井くん⁉ なんで?」
なんで彼がここに。私は混乱する頭で意味もなく店内を見回す。
この綺麗な店内と、学年の女子の中にも根強いファンがいる蒼井くんの取り合わせはあまりにもよすぎる。
「なんでって言われても、この店は僕の家の家業だし。僕のほうこそ、聞きたいかな」
蒼井くんがパタンと手元の本を閉じ、立ち上がる。彼も私同様、制服ではなく私服姿だった。ネイビーのシンプルなYシャツを、第一ボタンを開けてさらりと着こなし、細身の黒いズボンが彼の足の長さを際立たせている。彼はそのまま不思議そうに首をひねった。
私たちはお互いを戸惑って見遣りながら、その場に固まる。
かくして、私と『彼』は出会ったのだった。
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