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「桐生さん、どうやってここに来たの?」
蒼井くんが口を開いて、私はゆっくりと瞬きをする。まさかこの男の子が、私の名前を認識してくれていたとは。
私と彼は面と向かって話したことが多分ないはず。今は五月初め、私たちが高校二年生になって同じクラスになって、一か月あまり。私はといえば、クラスの女子はあらかた把握したものの、男子とはまだあまり絡みがない。
「にゃあ」
蒼井くんの質問に答えようとしている私の横で、何かが鳴き声を上げ、とてとてと駆け寄ってくる。
「わ、かわいい!」
曇りのない深いブルーの色の瞳でこちらをまっすぐ見つめながら、毛並みの良い黒猫がじっとこちらを見上げている。私は思わずしゃがみ込んで、その猫を見つめた。
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