<5・Kind>

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<5・Kind>

 屋敷に勤めて、一週間ほどする頃。  ロザリーにも大体、この屋敷での仕事のスケジュールや、暗黙の了解の類いがぼんやりとわかるようになりつつあった。  朝起きたらまずは一度目の洗濯、そして玄関などの掃除。朝食の給仕。  家族が起きてきたら、それぞれのお部屋の掃除やベットメイキング、庭の掃除などを行う。二度目の洗濯や、昼食の手伝いなどもあるが、メイドの仕事の大半は掃除がメインだと言っても過言ではない。広い屋敷の掃除を少ない人数で、少しでも手早く片付ける手際が求められる。勤めてみて実感したことは、この仕事には極めて力仕事が多いということだ。ダイエットには丁度いいのかもしれない――筋肉痛と戦う覚悟は求められるけれども。  ただし、それらの仕事が滞っても、暗黙の了解として最優先にされていることがある。それは、家族の呼び出し、だ。メイドとしての仕事には、家族とお話をして親交を深めることも入っていたらしい。特に、階級制度ゆえの差別を良しとしない一家のメンバーは、自分達とは大きく違うロザリーの今までの生活についてとても興味深く聞きたがった。ロザリーとしても、貴族の方々と分け隔てなく、友人のように語り合える時間はとても貴重なものである。  まだ一週間ではあるが、ロザリーはエルガート一家のことを好きになりつつあったし、とても充実した生活を送らせて貰っていた。ただ二つばかり――困ったことがあるのを除いては。 「悪い夢?」  今日のお話し相手は、奥様であるジュリア・エルガートだった。  病弱であり、体調を崩しやすいのだというジュリアは、最近は一日中の殆どをベッドの上で過ごすことが多いのだという。どことなく娘のヒルダに似た優しい面差しの夫人は、まるで実の母親のように優しくロザリーの話を聞いてくれていた。彼女にとっても、新しく入ったメイドの話を聞くのは新鮮なことなのだろう。もう持っていた物語の殆どは読みきってしまったから、とても退屈だったのよ、と彼女は笑っていた。  その彼女に語ったことこそ、ここのところロザリーの頭痛の種となっている出来事だった。つまり、毎晩のように悪い夢の魘されるのである。 「はい……奥様。私にとっても何がなんだかわからないのですけど……お屋敷のどこかで、私が遺体を見つけるという夢なんです。しかも、毎日違う人の遺体を発見し、誰か恐ろしい人に声をかけられて目を覚ます……ということを繰り返しているのです」 「毎回違う遺体……それは男の人なのかしら?それとも女の人?どのような遺体なの?」 「女の人が多いですけど、男の人の時もありますね。そして、恐らく死因はいつも同じなんです」
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