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真夜中。屋敷の廊下にいるロザリーが歩いていると、段々と蝿の羽音が聞こえるようになってくる。そして、その羽音がする方向に歩いていくと、酷い有り様で死んでいる人物を発見するに至るのだ。
その人物はみんな、ロザリーと同じメイドか、執事のような格好をしている男女。若い人いれば、年配者もいる。確かなのは全員が、恐怖にひきつった顔をして死んでいるということ。全員が蛆と、酷い吐血や下血にまみれて死んでいるということである。
ロザリーがそのあたりを、ややオブラートに包んだ上で伝えると。
「そう……それはとても恐ろしかったわね。しかも、この屋敷に来てから見るようになるなんて……やはり、何かのお告げでもあるのかしら」
眉をひそめ、何を考える仕草をしてジュリアは告げた。
「マタイによる福音によれば……正しき人であるヨセフが、苦しみの内にも主の天使が夢を通して告げられたお告げを信じたことによって、マリア様が無事に男の子を産むことができたと伝えているわ。偉大なる主が、夢によって人になんらかの啓示を齎すというのは知られた話よね」
「は、はい」
「夢というものについて、多くの人が研究を進めているものの……未だにわかっていないことは多いわ。人の脳の仕組みはまだまだ複雑怪奇であるし、どのような人が主に預言を与えられるのかなんて誰にもわからないことであるもの。ヨセフは“正しき人”ではあったけれど、そのお告げを聞くまではあくまで民の一人でしかなかった。むしろ、お告げを信じて初めて、特別な“人”になったとも解釈できるわ」
信じるか信じないかが分かれ道なのよね、と彼女は笑う。
「まあ、それはともかくとして。夢に主や主の天使様がお告げをしに現れるということを踏まえても、昔から特別な意味のあるものとして考えられていたのは事実なのよ。私個人は、どのような恐ろしい夢であっても必ず意味があると思うわ。その夢は、天使様が貴方に何かを知らせてくれようとしているのかもしれないわね」
お告げかもしれない、とそう言うのだろうか。自分はそんなものを受けるような高尚人間では、とロザリーは言いかけて気付く。それこそ、己がジュリアが言いたいことを履き違えているということに。
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