<1・Sister>

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 彼女は手馴れた様子で(そりゃもう、自分の家なのだから当たり前だろうが)玄関を開け、私を屋敷の中まで連れ込んでしまった。すると、ドアがしまる音に気づいてか、奥からぴっしりとしたメイド服を来た女性が飛び出してくる。かなり年輩の女性であるように見えるが、もしやここのメイド頭というやつなのではなかろうか。  ああこれ、ものすごく無礼な女だと思われるヤツではないだろうか。やや青ざめるロザリーである。 「す、すみません、私……」 「お嬢様!そうやって人の腕をぐいぐい引っ張るものではありませんよ!というか、また見ず知らずの人をお屋敷に連れ込んで……!」 「い?」  しかし、予想外なことに怒られたのはロザリーではなかった。口をまんまるにポカーンと開けると、ようやく人懐っこい少女は私の腕を離してしょんぼりする。 「だって……門の前でずっと立ちっぱなしなんだもの。新しくメイドさんが来てくれたっていうから、嬉しくてつい……。どうせこのお屋敷に住んでくれる人なんだから、いいでしょ?」  あらま、とメイド頭の女性は目を丸くしてこっちを見る。ロザリーはぴしっと背を正して、どうにか口を開いた。 「し、し、失礼いたしました!私、新しくこちらでお世話になることになりましたロザリーと、ともうしま、ます!よ、よろしくお願いしましゅ!!」  なんたる噛みまくりの酷い自己紹介であることか。カチコチカチ、と音がしそうなほどの緊張ぶりである私を見て、厳格そうに見えたメイド頭の女性がぷっと吹き出した。思ったより、怖い人ではないのかもしれない。 「あら、そうだったの。そんなに緊張されなくてもいいのに。……私、こちらのメイド頭として働かせていただいておりますヨハンナと申します。応接室にご案内しますね。ご主人様をお呼びしますから、少し待っていて下さるかしら?」 「は、はい」 「あ、じゃあ私がお部屋に案内する!いっぱい聞いて欲しいお話があるのー!」  ヒルダは本当に人見知りしない性格であるらしい。ロザリーは再びぐいぐいと腕を引っ張られ、応接室の方へ連れ込まれることとなった。今度はヨハンナも止めない。ロザリーに任せてもいいや、と考えているのなら相当ゆるい家である。というか、ロンドン有数の名家であるというだけで、もっと厳格な印象を持っていたのだが――存外、そういうしきたりなどに厳しくないのだろうか。  長らく親戚の家で暮らしていたものの、実質お荷物扱いされてきたロザリー。仕事中の事故で両親が死んでから、ただでさえ厳しい一家の財政の中娘を押し付けられた叔母夫婦はさぞかし迷惑したことだろう。与えられたのは、埃だらけの屋根裏だった。
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