<5・Kind>

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「ここのところ少し体調が悪いので……それだけは申し訳ないとは、思っているのですけど」 「あら、そうなの?熱があるとか?」 「いえ、その……お腹の具合が、あまり良くなくて」  これが、ロザリーが目下悩んでいることのふたつめ。  恥ずかしいと思った理由は、己の不摂生が申し訳なくなったからが一つ。それから、どうしてもうら若い娘がお腹を下しがちというのは、羞恥が先に立ってしまってはっきりとは言いづらかったからである。 「あら、まあ。それは大変だわ。女の子はもっと体を大事にしないと。使用人だからって遠慮しないで、素直に言えばいいのよ。……ヨハンナ!」  あまり起きられない奥様のために、特別に設置してあるのだろう。ベッドの側の呼び鈴を鳴らすジュリア。ロザリーは慌てた。まだ仕事中ではあるし、痛いと言ってもお腹が緩くてしくしく痛むだけである。目の前の女性と比べたら大した体調不良でもないというのに。 「お、奥様!気になさらなくていいですから!まだお仕事中ですし!」 「駄目よ、ちょっとお掃除できない日があって埃が溜まっても、翌日なんとかすればいだけだけど。貴女の体はそうじゃないのよ。健康に勝るものはないわ。お仕事なんかより、よっぽど大事よ」 「お、奥様……」 「私が病気になったのだって、若い頃の不摂生が原因だったんだもの。素直に聞いておきなさい」  優しく、そう諭すように言われてしまってはどうしようもない。ロザリーは目頭が熱くなるのを感じながら、ありがとうございます、ありがとうございます、と繰り返した。 「ヨハンナのお粥はとっても美味しいの。東洋から仕入れた薬草もとってもよく効くわ。私もよく頂くのよ」  優しい夫人は、ロザリーの頭を撫でながら言う。 「夢のことも、体調のことも。どうか遠慮せずに言ってね。私たちにとっては、貴女はもう家族も同然なのだから」 「……はい、奥様」  暖かく、平和な日常。こんな日々が続けばどれほど幸せだろう、とロザリーは思っていた。  既に破滅の足音は――すぐ側まで迫っていたというのに。
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