<6・Nightmare>

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<6・Nightmare>

 夢が、誰かのお告げであるのならば。一体誰が、何の目的で自分に“お告げ”をしているのだろう。  なんせ、出てきた存在は“遺体”ばかり。後ろに立つ怪しげな存在は、どちらかといえば夢の中での“悪役”ポジションであったと思う。あの邪悪な気配は、どうあっても神様の類であったとは思えない。 ――じゃあ、あの遺体の、誰か?そもそも、何故生きた状態で登場しないのかしら……。  ああ、今夜も同じ夢だ、とロザリーは気づいた。ジュリアと話したその日、自分にはヨハンナ特性の美味しいお粥と薬を出して貰ったのだが。それでも、少し痛みは楽になったもののお腹が緩いことには変わらず、トイレでげっそり疲れてしまい、そのままベッドに倒れ込んで寝入ってしまったという経緯がある。  割と、お腹は丈夫だという自負があったというのに。やはり慣れない環境で、美味しいものを食べ過ぎたせいなのだろうか。流石に、仕事中も何度もトイレに駆け込む羽目になってしまい、ほとほと困り果ててはいるのだけれど。 「!」  そして。ロザリーは今日の夢が、どうやらいつもと趣が違うものであるらしいと気付く。いつものように真夜中の廊下に立っていると、向こうからバタバタと走って来る足音が聞こえるのだ。  やがて月明かりの下、その姿が露となる。それは、ロザリーと同じくらいの年頃の少女だった。メイド服を着て、一心不乱にこちらへと廊下を走ってくる。その顔は真っ青で、口元や服の襟元がやや赤黒く汚れているのがわかった。血だ――と。少女の顔がはっきり見えるようになったところで、気付く。  彼女はどうやらロザリーが見えていないらしい。ただ、まるで魘されるように繰り返していた。 「た、助けて……助けて、助けて助けて助けて助けて助けてっ!し、死にたくない……あたし、死にたくないっ!」  ふと、彼女の足がもたつき、カーペットにひっかかるようにして躓いた。丁度ロザリーの目の前である。黒く長い髪に、同じ色の瞳。東洋人系の美しい顔立ちの少女は、信じられないというように眼をいっぱいに見開いていた。  ばたん!と大きな音が響き渡る。少女が、思い切り転んだ音だった。 「だ、大丈夫……!?」  見えてないのだろうし、これが夢の中だとわかっていても、声をかけずにはいられぬロザリー。しかし、次の瞬間、躊躇いがちなロザリーの声は、獣のような呻き声によってかき消された。
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