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「う、ぎいいいいいいいいいいい!ぐ、ぐ、ううう、うううううううううう!」
人は本当に苦しい時、かのような声を出すのだろうか。彼女は転んだ痛みに呻いているのではなかった。そのままごろん、と仰向けに床に転がり、己の腹部を抑えて七転八倒している。がりがりと、メイド服の腹部分が破れてしまいそうなほど己の腹を引っ掻いていた。血走った眼が、ぐるんと上向きにひっくり返る。
「ぐううううううううううぎいいいいいいいい!痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い、やめで、おなが、やぶげじゃう……いだい、いだいいいいいい!」
花のように美しい娘が、これほど低く濁った声で訴えようとは。一体どれほどおぞましい痛みが彼女を襲っているのだろう。ぼごお、と次の瞬間、顎が外れんばかりに大きく開かれた口から血の塊が溢れ出した。酸っぱいような、あるいは排泄物のような酷い臭いが周囲に立ち込める。血が混じった吐瀉物を撒き散らしつつ、彼女は苦しみから逃れようと両足を大きくバタつかせた。まるで、水の中で必死にバタ足をして溺れまいとでもしているかのような所作。スカートが大きくまくれあがり、丸見えになった下着にじわり、とシミが広がっていく。
黄色と、茶色と、赤。あっという間に下着の許容量を超えて溢れ出す排泄物。しかし、こんな場所で漏らしてしまった羞恥心を感じるほどの余裕は、少女には一切残されていないようだった。ロザリーはただ呆然と、その恐ろしい光景を見つめるしかない。
やがてぜえぜえと息をしながら、彼女はぼこぼこと血泡を吹きながらも――掠れた声で、呟いた。
「いや、いや……おねが、助け……あたしの、身体から、出ていって……あ……」
――身体から、出て行って?
思わず眼を見開く。今までロザリーが夢の中で見た遺体と同じ。目の前の少女も、今まで死んだメイド達と同じ状況に陥っているとみて間違いないだろう。恐らくは、毒物か何かに急激に消化器官を侵されたのだと思っていた。あるいは、消化機能を破壊するような恐ろしい病に罹患したのか、と。
しかし、そうではない?身体から出て行くというのは、一体。
「うう、ぐう、いだいよお……っ」
彼女は吐血し、血便を漏らし、それらに塗れながら――這うようにして、床を進み始める。ここで、ようやくロザリーは気づいた。自分の真横の壁に、一つの扉があるということに。
――彼女は此処を、目指していたの?此処を目指して、何かから逃げていたということ?
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